第7話 火柱
源さんは父より年上で、おばあちゃんの面倒と家の修理・蚕部屋作り
山の木の切り出し、蒔き作り、炭焼きや大工さん、刃物の歯付けから、炊きもの集め、今で言う「なんでも屋」何でもできて無口だった。
源さんは挨拶と「出来ました」と「頂きます」「御馳走様」しか言わない。
週に一度街まで必ず出かけていた、何をしに通っていたかはわらないのだが
街に奥さんが居るんじゃないかと作蔵はいっていた。
土曜の夕刻に家を出て、日曜の夜中に源さんは沢道を帰って来る
学校に行く月曜の朝早く、源さんが勝手の横の藁部屋のきよこの所にやってきた
「栃久保で近い内に大火事が起こるかも知れないから、帰りは深沢から帰っておいで」栃久保は小田切の学校の南に拡がる地域の事だ、普段眼を合わせて話す源さんが、半分先を見ながら「誰にも言わないでおけ」と付け加えた。
その日、学校が終り校門を出ると
半鐘が勢いよく鳴り出した、栃久保の神社裏に煙が上がり、作庭の集落が燃えていた、神社横の葦林を巻き込み裏山まで火がひろがっていた。
今朝の源さんの話は忘れていた、火事が起きてハッと源さんの言葉をおもいだした
帰り道の深沢沿いで炭焼きをしている源さんの炭焼き小屋に、寄り道することにした
源さんは「きよこが来ると思っていた」と言って、釜口を粘土で塞ぎ、煙突を小口にし、一緒に山道を家に向かった、帰りの道ながら源さんは珍しくきよこに話しかけていた、沢道から山道に入る小さな社で、源さんは沢の方に振り向いた。
「日曜小田切に帰っていると、そこの中洲の岩に蒼い火柱が立った」「ゴ~~~と音をたてて、岩場の天辺に太さ6尺、高さ四間程の火柱が立った」
「火柱が沢に倒れる時は何も起こらないが、火柱が山に倒れると先の村に大火が有るんだ」
「山の尾根の栃久保に倒れた・・・・・」
火柱は鳥だとも言っていた、隼が崖を急降下する時の羽音がするのだそうだ。
夜光る鳥・・・・・火の鳥だ。
淡々としていた、「きよこ、誰にも言ってないか」
「犯人にされるから、だれにも言わないと思っていたんだけど、きよこの学校の方で巻き込まれたら危ないから教えた」「これからも誰にも言っちゃならん」
淡々としながら話していた源さんは急にきよこを睨んだ。
きよこは母の深沢中洲の成り立ち「深沢の中洲の脇には善光寺地震で崩れる前、白砂の中に温泉が湧いていて、深沢のお爺ちゃんおばあちゃんが、温泉の中で白砂のがけ崩れで埋まった」しまった話。中御所で犀川の主の三尺程の鯉を釣って、自慢そうに皆で分けて食べてしまったら、鯉の形に中御所の町が焼けてしまった話。
母の昔話を思い出していた。
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