第十六投 えくすこたんのバイト面接

 ―――エクセリア城内

 

 手にした手紙に、汗が滲んでいく。

 

「確かにブルーノからなんだな。ギルドからは?」

 

「まだ何もありません」

 

「そうか……。急ぎ、宰相と各騎士団長を招集しろ。円卓会議を開く」


「はっ」

 

 手紙を火にくべてから、ゆっくりと窓に映えるグレートアルカディアを眺めた。

 

「百年ぶりの加護持ちか。護れというのだなサトシよ……」

 

 王は一人呟いた。

 

 

 

§



 ここに賭けるしかない。

 

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 ウェイター・ウェイトレス募集!

  エクセリア名物の老舗ピザ店

  

  パパ・エクセリアで働こう!

  

   年齢・性別・経験問わず

 

 

 給料応相談・住込み可・食事補助

 見習い期間中 日給6000シリング

     まずは面接にて

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 約束通り、あーちゃん達と魔術ギルド一階の求人募集を見に来たよ。

 といっても、たんこぶ作ってブーたれてるスヴェンさんの肩に荷物みたいに担がれてるけどね、あーちゃんは。

 さっきの個室でスヴェンさんとあーちゃんの喧嘩があまりにもひどいから、ブルーノさんの鉄拳が二人にお見舞いされた。つまり、あーちゃんは伸びてる。

 あーちゃんは姫様で、ブルーノさんは家来ではなかったのでしょうか?

 頭の中の相関図を書き換えようかな。

 

 

 

 エクシア王国は石造建築が多いだけあって、求人は城壁工事とか道路舗装のガテン系ばっかり。

 そういうのは男性限定で、女性でもできそうな仕事で多いのは夜のお姉様達の仕事。

 他に服飾系とかメイドの求人があるけど、年齢・経験といった条件が合わないの。しかもガテン系に比べると圧倒的に少ないしね。

 

 だからパパ・エクセリアしかない!

 私、住む処もないんだから。

 

「ブルーノさん! パパ・エクセリアはどこにあるのっ?」

 

「本店ならここから歩いて十分くらいです。案内して差し上げましょう」


 魔術ギルドを出たところで、大通りを刻の宿とは反対方向に進む。

 パパ・エクセリアはピザ屋さん。当然お会計も業務範囲だろう。

 私、銀貨が十枚で金貨一枚になるという事以外何も知らないから、面接の前に確認しておかないと。

 

「ブルーノさん。この国のお金の種類を教えてもらえます?」


「そうですね、まずエクシア王国の通貨名はシリングといいます。鉄貨・銅貨・銀貨・金貨があり、その順にそれぞれ百、千、万、十万シリングとなっておりますよ」

 

「なるほど、四種類ですか」


「あとは、商人や国が取引に使うフィラデル金貨という高価なものもありますが、なかなかお目にかかれるものではありませんね」


「それは、金貨何枚分……?」


「時々レートが変動しますが、今はエクシア金貨十枚程度で取引されています」

 

 えーっと、百万シリング!?

 時の宿のスイートルーム一泊が一万シリングだから……、超高額貨幣だわ!

 

「それは、たしかになかなかお目にかかれそうにないですね……」


 残念、下手したら一生……、見れなくてもいいんだって! 私帰るんだから!


「フィラデル金貨は隣国、魔法国家フィラデルが発行している魔法貨幣。魔法判定士による鑑定で真贋を見極めることができ、信用できるがゆえに価値も高いのです」


 おぉ、なんとファンタジーアイテムだった! そこは、魔術じゃなくて魔法なんだね。

 それと、お隣の国は魔法国家フィラデルと。メモメモ。

 

「あと、EXCエクスコとシリングの交換レートも教えてくれます?」


「現在は大体1シリング2EXCエクスコくらいですね」


 お金の話を聞いていると、いつの間にか香ばしい匂いが漂っていた。

 先の方には、魔術ギルドと同じくらいありそうな大きな店舗。

 すごい。お昼の時間にはまだ少し早いだろうにも関わらず、お客が途切れることが無い。いろんな人種の人が出たり入ったり……。

 そしてこのチーズの匂い!! 焼き鳥の煙くらいの攻撃力……くぅ、お腹が反応しそうだぜ。静まれ、腹の虫! 私はヒロイン!

 間違いない、あれこそがパパ・エクセリアだ。

 

「仕事の応募の時って、裏口から入るのが礼儀だったりしないかな?」


「初めてここを訪れる者は、裏口なぞ知り得ませんから問題は無いでしょう」


 ブルーノさんに言われると何故か安心するね。

 よし、行こう。それはもう堂々と。ウッドデッキのオープンカフェ席をかき分けて。

 

 

 

 扉を開けて中に入ると、空気が美味い! チーズ、ピザ生地が焼けるこの……あぁ、もう一回言わせて! 空気が美味い! 山じゃないのに!

 

「いらっしゃいませ。四名様……! き、昨日は助けていただいてありがとうございましたー!」


 優勝者のシエラちゃんだ。

 シタタタタッとブルーノさんのところまで来て、短いスカートをちょいとつまんで綺麗にご挨拶。

 狐耳とスカートの下からのぞくしっぽが嬉しそうにピコピコ弾んでる。

 

「怪我も無く元気そうで何よりですね」


「はい♪」


 ピコピコ、ピコピコ。ケモミミさんは感情が耳としっぽに出ちゃうのかな。片思いするの大変そうねぇ。恋がダダ漏れしてるよ、シエラちゃん。微笑ましい。

 

「仕事には慣れましたか?」


「はい♪ お店の人も、御客様も皆私に良くしてくれますので」


「そうですか、それは僥倖。ところで、支配人はいますか? 仕事の面接を受けたい者がいるのです」


「それでは、こちらの席でお待ちください。すぐに呼んでまいります」




 程なくして、飲み物を乗せたトレイを持ったシエラちゃんと細身の調理服姿の人が現れた。

 

「ようこそ当店へ、ブルーノ様。面接を受けたいというのはそちらのお嬢様ですか?」


「はい! 私、エクシアといいます。ここで働かせてください! よろしくお願いします」

 

「元気がいいですね。私はロドリゴ。パパ・エクセリアの支配人兼料理長を務めております」


 帽子を取って胸に当て、丁寧な礼をしてくれた。

 不思議な雰囲気のダンディ。

 と言えば聞こえはいいけど、営業スマイルで本心が分からない感じ。多分だけどこの人、動物に好かれないだろうな。

 平たく言えば胡散臭い。あ、ハッキリ言っちゃった。テヘ☆


「ねぇ、パパ」


 ちょ、シエラちゃん。支配人をパパ? 気さく過ぎない?

 確かにお店の名前ではあるけれど、もし私も雇ってもらえたらパパ呼びしなきゃなの!?

 むむ。日本育ちの私には意外と抵抗がある。

 

「私また勝負挑まれたの。ちょっとやってくるね」

 

「程々にするのですよ」


 わぁ、大食い勝負ね。向こうでマッチョなお兄さんが気勢を上げてるもん。

 建国祭で優勝したから余計にそういうお客が増えてるのかな。

 

「それでは、早速。エクシアさんはどちらにお住まいですか?」


 ヤバッ、いきなり核心を突く質問が来た!

 周りに気を取られ過ぎて、事前練習、イメージトレーニングができてない!

 

「わ、私、今住むところも無い根無し草なんです。昨日の建国祭で(異世界から)エクシア王国まで連れてこられたんですけど、(どこぞの誰かに)着の身着のまま放り出されてしまって帰るに帰れないんです」


 嘘はついていない!

 

「そうですか、それはお困りですね。見たところ、奴隷では無いようですが大変な事があったのですね。女性にこんなことを聴くのは心苦しいのですが、歳はおいくつになりますか?」


「昨日で十六歳になりました」


「おぉ、昨日が誕生日だったのですか。それはおめでとうございます」

 

 今の会話で椅子に寝かされてたあーちゃんがガバッと起きた。


「それでは、エクシアさん特技等はありますか? このお店で何ができますか?」


「絵を描くことと、計算が得意です! 人混みをくぐって移動することも。お会計はお任せください」


「ほう、それは是非ともお手並み拝見させていただきたい。まずは計算を」


 かかった! 昨日の刻の宿でのミーナちゃんの様子から、こちらの世界では計算能力がポイント高いと踏んでいたのよ。

 今こそ、そろばんで培った暗算能力を見せてやる!


「それでは、3人組の御客様が1,800シリングのピザ3枚と100シリングのトマト水3杯を注文し、代金として銀貨1枚を受取りました。お釣りはどうなりますか?」


 うーんと、代金合計5,700シリングだから……。

 

「銅貨4枚と、鉄貨3枚になります」


「正解ですね。それでは、1シリング2EXCエクスコとして、代金の合計は何EXCエクスコに?」


「11,400EXCエクスコです」


「うん、素晴らしい。計算時間も申し分無い。基本的なところは合格ですね」


「ありがとうございます!」

 

 チョロすぎない!? そろばん能力なんて見せるまでもなく、小学生の算数レベルじゃない!!

 ん? ブルーノさんが獲物を見る目でこっちを見てる。何か言ってるね、なになに?

 

 こ・れ・は、つ・か・え・る・な。

 

 ……やっべ。こわっ。私、あの人に後でどこかに売られるんじゃ?

 

 奥では、既に勝負が始まっていて二人とも物凄いスピードでピザを食べている。

 次々運ばれるピザの匂いがこっちまで漂ってくるんだよね。

 は~、匂いがこんなに濃いなら、食べたらどんなに美味しいんだろう。

 

「それにしても、その暗算力は大した物ですねぇ。もし採用になって慣れてきましたら、お店の経理もお願いしましょうかね」


 よだれ垂らしてるうちに、話が大きくなった。

 

「もう、なんでもお任せください!」


 胸をドン! と叩く。もういいや、行けるとこまで行っちゃえー。

 

「それでは、もう一つの絵を描くのが得意という事ですが、どのような絵をかかれるのですか?」


「各地を旅してその風景や、人々の生活を描いています。こんな風に」


 昨日描いた街の夜景や、エクセリアを滝の上から見下ろした絵を見せる。

 

「これはこれは、素晴らしい腕前ですね。惚れ惚れします」


「ありがとうございます!」


「これは直ぐにその場で描いているのですか?」


「そういうのも有りますけど、頭に焼き付けて後から描いているのも結構ありますよ。描こうと思って覚えたイメージは忘れないんです!」


「それはまた優れた能力を御持ちで。そうですね、一つゲームをしましょうか。勝てば採用決定です」


「ゲームですか?」


「ええ、こう見えてこのお店は採用希望の方がかなりいらっしゃいます。当然優秀な方も多いので最終的にはゲームで決めることも多いのですよ」


 こういうところが胡散臭い理由の一つなのかな。

 人を自分のペースで動かすのが好きっていうか。

 なんでこの人、ピザ屋やってるんだろう。

 やっぱりこの人、調理人は表の顔で本性は勝負師だわ。


「ルールは簡単です。ソルト、ペッパー、チリソース、オリーブオイル、エクシア金貨、ダイス、カード……」


 一つずつ私に表裏を見せながらテーブルに配置していくロドリゴさん。


「私が何かを動かしますから、それを当ててください。回答権は一回だけ」


「今から10数えます。0になったら動かしますよ。9、8……」


 トレース! 位置、質感、ラベルの向き……。


「7、6、5……」


 カードの意匠、コインの表裏……。


「4、3……」

 

 サイコロの目……。

 

「2」


 イメージで、写真で脳に刻み込め!

 

「1」


 多分大丈夫。覚えた……。

 

 0カウントは宣言されなかった。

 ロドリゴさんは右手を開いて手のひらを下にし、テーブルの右端にかざした。開かれた細い指はビクともしない。

 右手はそのままテーブルの左端へ、ゆっくりと並べられた品をなぞる様に滑っていく。


「さあ、動いたものをお答えください」


 あ、え、うぁ。何も動いてない! ウソ! そんなぁ、ダメダメ弱気になっちゃ。

 エクシアはココでピザ食べ……、働くって決めたんだから!

 イメージを呼び起こせ、差分を浮かび上がらせろ! 変化を見逃すなっ!

 

 ……。

 

「流石に、貴方でも分かりませんか? じっくり考えてくださって良いですよ」


 本当に微動だにしていないのに、何を動かしたって言うの?

 錯視とかを利用したトリックだろうか? それか、ひょっとして哲学? 物は動いていないけど、時は流れているとか?

 

 今、目の前のロドリゴさんの顔はピザ職人じゃない。人を陥れようとする奇術師の顔だ。

 口角をニンマリ上げて、獲物がもがいてる姿を楽しんでる。笑う姿は蛇のよう。こ、この人……。

 

「父さんから聞いた事がある。エクシア王国創設期、仲間の一人に凄腕の奇術師がいたって」


 ……あーちゃん。

 

「隣国が建国間もない脆弱なエクシア王国を狙ってきたけど、詭弁奇術を駆使して剣を交えず国を守った……ロドリゴさん、つまり貴方だ」


 真顔のところ申し訳ないけど、頭のたんこぶですごい説得力ないよ。

 

 

 

 

「いいですねぇ、勝気なその目。あなた、素晴らしい。意志の強さが見えます。さぁ、答えを聞かせてください」


 本当にいい性格してる。けど私だって……、

 

「分かりました。答えは……」

 

「はい」


「オリーブオイル……」

 

 ロドリゴさんの顔は微動だにしない。

 

 

「……の液面よ! 増えてる!」


「ブラボー! このゲームで負けたのは貴方で二回目です。お見事でした」


 周りからも拍手が起こる。ロドリゴさんも柔和な営業スマイルに戻った。

 やったぁー!

 

「ちなみに一回目は誰に?」


「建国王のサトシ・ヤマモトですよ。あれは悔しかったですねぇ」


 悔しい? 私にはパパが嬉しそうに見えるよ。


「それでは早速明日からお仕事をお願いしますね。時間は朝十時から、昼の二時までと夕方の六時から夜の十時まででお願いします。住込みで、昼と夕方は賄い食がありますよ。お給料は、そうですね見習い期間中は一日8,000シリングでいかがでしょうか?」


 張り紙の金額より上乗せしてくれてる! これって、結構いい条件ではないだろうか? 住居と、食事を同時にゲットできたよ!

 

「はい! よろしくお願いしますっ!」


「それでは、そこの大食い勝負が終わったら、シエラさんに案内をお願いしておきますから、明日からの準備をしておいてくださいね」


 するとロドリゴさんは右手を私に差し出してきた。

 私も手を出すと、握手かと思いきや両手で包まれた。


「それでは頑張ってください。私の事は、好きに呼んでくださって構いませんよ。皆はパパと呼んでくれますがね」


 そう言うと、シエラちゃんに一言か二言か伝えて奥に消えていった。

 大食い勝負はシエラちゃんの圧勝だね。「ありえんっ」とかいう声が聞こえてくる。

 パパかぁ……。不思議な感じだった。あれが本物の奇術師か。

 

 さぁ、明日からお仕事がんばるぞ。

 可愛い制服着るの実は楽しみなんだ♪

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