第十三投 えくすこたんは犯罪者?
街は朝の活気に溢れつつも、まだ所々お祭りの余韻を残していた。
だよね~。私だって夏休み明けとかお正月明けとか(特に1月5日!)、通常運転に切り替えるのはなかなか難しいもん。
こうやって異世界と自分の共通点が見つかると、ますます元気☆やっていける気がする。
時計塔を横目に歩いて行くと、石で舗装された大通りに出た。
建物も道も、石を基調としているこの世界。中世ヨーロッパ風と一言で言ってしまえば
昨日は石が建国祭の熱気を冷まし、今日は木材が陽光を吸い込んで温かい。うまくできてるなぁ。
私の首は通り過ぎた建物をもう一度振り返ったり、屋上を見上げたり、朝からフル回転。
「
ぐいっ。
人にぶつかりそうになってたところを、スヴェンさんに手を引かれた。
「気をつけな。今日は特にスリが多いんだ。祭りの後でみんな油断してっから」
あぅ、ごめんなさい。なけなしの銀貨9枚をスられたら大変だもんね。
しばらくは全方位を警戒して歩いてみr……
あっ!!
私はスヴェンさんの手を振り切り、脱兎の勢いで人々の隙間をすり抜けていった。
説明しよう!
これは、他人より先にスケッチポイントを陣取るための技『スネーク・スルー』!
サイコロの旅の目的地が観光名所になることも珍しくなかったが、この技を持ってすれば私にとって混雑などは問題ではなかったのだ!
キキキーッ! 急ブレーキッ!
こんにちは、街娘を装ったどこぞのお嬢様。 今日のスケッチポイントはあなたよ!
お嬢様が私に驚いて口を開く前に、彼女の顔へ私の両手の平を突き出す。そして、いないいない…
「ばぁ! 朝のごあいさつするです~!」
開いた両手の間から見えたあーちゃんは目を白黒、口をパクパク。
「お、お、おはようございます~~」
と綺麗にスカートの端をつまんで言うのでした。
はい、可愛い。よくできました。
これは私が編み出した、相手に強制的に挨拶をさせる魔術です。
「はぁ、はぁ。だからえくすこたん、離れたら危ねぇって……ん?」
「お、お、おはようございます~~」
すっかりテンパッてるあーちゃんは、後から来たスヴェンさんにも私と同じ挨拶を繰り返した。
あーちゃんとブルーノさんの背後にそびえる建物が今日の目的地、魔術ギルドでしたか。
明らかに周囲とは一線を画す無骨な建物で、その木製の重厚な扉は、これから冒険者達に絡まれるという異世界テンプレのフラグにしか見えなかった。
「さぁ、エクシア嬢。今日はエクセリアで生活していく為の手続きをしてもらいますよ。どうぞお入りください」
ゴクリ……。
荒くれた冒険者たちがいたらどうしよう……。
身を縮こまらせておずおずと入る。
すると意外や意外。高級木材をふんだんに使った豪奢な内装が目に飛び込んできた。
あ、あれ? オラついた人たちは?
あっちの広い空間では職員が忙しそうに書類を渡し合い、こっちの待機スペースには順番待ちの人々。その境界にカウンターがあって、受付嬢が列の対応に追われている。
なぁんだ。まるっきり銀行みたい。
周りからは『銀翼のアーシャ様』とか『血濡れの天使様』とか、『俺の嫁』という囁きが聴こえてくる。
「スヴェン、
ブルーノさんが言うと、スヴェンさんは申請書を取りに向こうへ行った。スヴェンさんの行くところ、順番待ちの人々が自然と道を開ける。モーセかな?
一方、ブルーノさんは列の無い有人カウンターで受付嬢と何か手続き? を始めている。
その間、あーちゃんは「よく眠れた?」とか私に話かけてくれるんだけど、私はちょっと皆さんの視線が気になって……話が耳に入りませ~ん。
「アーシャ様、お待ちしておりました。さぁ、こちらの席へどうぞ」
程なくして奥からやってきた美人さんは、ヘレナさん。亜麻色のロングヘアを編込みハーフアップにした、切れ長の目を持つクールビューティーさんだ。
有人カウンターの隣に併設されている、半個室の面談ブース的なところに案内してくれたよ。
それにしても、お待ちしておりましたって……。
さすがあーちゃん様、これが貴族様の根回しというやつね。私ごときにそんな手間を取らせてしまって申し訳ないなぁ。
「急な事で申し訳け無いですけど、おねぇちゃんの市民登録をお願いしますね」
ヘレナさんが少し驚いたような気がしたけど一瞬で表情が元の美人スマイルに戻る。綺麗な上に仕事デキル系だな。
「他ならぬアーシャ様のご依頼ですもの、構いませんわ。では"おねぇちゃん"様、お名前を伺っても?」
う~ん、しかもお茶目さん。
「私の名前は、エクシア。今日はよろしくお願いします」
「エクシア様ね、良いお名前だわ。それでは早速、こちらに手を置いてもらえます?」
出されたのは、拳大の透明な水晶玉のような物。
こ、これ、ひょっとして私が異世界人だと一発で筒抜けになる鑑定の儀というやつですか?
「ふふ。おねぇちゃん、そんなに身構えなくていいよ。これは『識別の宝珠』といって、その人の簡易的な能力判定と業の深さを調べるだけ。犯罪者を市民登録することはできないからね」
「そ、そっか。じゃぁ、私は問題ないね」
そっと手を置いてみると、体から何かが抜けていく感覚がする。初めて魔術を使ってお水を出した時にも少し感じたけど、それよりも大分強い。
宝珠が白色に淡く発光して、次第に光が弱くなって……消えた。
無事に終了! 水晶がどす黒い紫色とかにならなくて良かった~。
ところが、笑顔のままヘレナさんが水晶を凝視して固まっている。
騒めき立つギャラリー達。
「申請書取ってきたぜー。うん? どうした?」
スヴェンさんが変な空気に戸惑ってる。
「ヘ、ヘレナさん……?」
あーちゃんも戸惑ってる。
「失礼しました、アーシャ様、エクシア様。ただ今、個室をご用意いたしますので、少々お待ちください」
美人スマイルを崩さず席を立つ。この顔は吉なの? 凶なの?
「お、おねぇちゃん大丈夫だよ。もし犯罪者だったらこの場で即武装職員に取り押さえられるからねっ。そんで投獄されて、詰問されて、場合によっては拷問、水責め。で、でも大半は犯罪奴隷として鉱山送りで済んじゃう。ねっ? 心配ないでしょ?」
あーちゃん……、それで安心できる人いないよ……。
私はあいさつ魔術よりも、あーちゃんのテンパリを解く魔術を開発すべきだと悟った。
一体私どうなっちゃうの~!?
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