第十四投 魔術ギルドでアメもらったよ
個室に案内された。
あーちゃん達は廊下で待機。
ヘレナさんと私の個人面談が始まろうとしている。
不用意な発言が命取りになりそうで、怖くて何もしゃべれないよ……。
「ご覧ください。こちらが『識別の宝珠』の結果でございます」
そう言うとヘレナさんは、メモ用紙サイズの紙を差し出した。
名前: エクシア
体力: 少ない
筋力: ちょっぴり
魔力: 多め
業 : -1
おいぃぃぃ! 適当すぎか!?
他のラノベ読んで勉強してこい!
しかし何気に『業:-1』が怖い……。
「本題はこちらですわ」
メモ用紙が裏返される。
固有魔法:
魔力? 固有魔法?
キタコレ! 私、魔法少女えくすこ☆エクシア!
あれ? でも誰とも契約してないよ?
「えっと、この固有魔法ってなんですか?」
「我々には分かりません。私にはその文字は読めませんでした。おそらく貴方特有の能力でしょうね。信頼できる人以外には、この事を秘密にすることをお勧めします」
「秘密? 魔法って内緒にするものなんですか?」
「魔法を使える方はこの国でもごく僅かです。魔術は
「……。(悪者がミニ○ンだったら大歓迎なのに、ぷくすぅ)」
「ご心配には及びませんよ? ギルドの情報はこの国の根幹に関わるため厳重に管理されております。私共、関係者が漏洩させた場合厳罰は免れられませんし、第一、犯罪といただいているお給料を天秤にかけたら、誰も情報漏洩に加担しようだなんて思いませんわ」
ヘレナさんは私のくだらない妄想顔を心配顔と勘違いして、安心させようと優しく背中までさすってくれた。
あーちゃん、これよ? コレ。お願い。見習って。
「あ、あと、この『業 : -1』ってやっぱり私、犯罪者なんですか!?」
「ふふ、とんでもない。人間生きているだけでも少なからぬ業を背負うものです。何物も殺さず、何物も犠牲にすることなく生きることなど不可能なのですよ。それでは、皆さんにも入ってもらいましょうか」
どうやら個人面談はこれにて終了。
魔法のことが少し分かって、一歩前進した気がする。
みんなが魔法使いになれるわけじゃないのね。
でも私の固有魔法、『
しかも厨二感あふれるこのネーミング。わ、私のセンスじゃないよっ!?
はぁ。使い方も分からないなら結局宝の持ち腐れよね。
でも、うふふ……。私には魔法の才能があるって。そこはやっぱり嬉しい。
「おねぇちゃん、どう? 大丈夫だった?」
カチャリと扉が開いて、心配そうなあーちゃんが入って来た。
「う、うん。ちょっと驚いたけど、問題ないよ」
「えくすこたん、犯罪者じゃないの?」
「キィィ! 身も心も真っ白な純白乙女ですっ!」
「その様子なら大丈夫そうだな。エクシア嬢、識別結果はエクセリア市民である証明にもなる。そろそろ大切に仕舞っておきなさい」
確かに。失くしたら再発行でまたご迷惑かけちゃうもんね。リュックの中のチャックが付いたポケットにしっかり仕舞ったよ。
「お疲れ様でした、エクシア様。こちらを差し上げますね」
もらったのは棒付きキャンディ。
そういえば異世界に来てからおやつ食べてなかった! やったぁ!
女の子には甘いものが必需品ですのよ。
どんな味がするのかなぁ☆ワクワク。
「マンドラゴラ・キャンディでございます」
!!
脳内で、あの気持ち悪い人面高麗ニンジンみたいなのがハッキリと再生された。
あれを引っこ抜いて、すり潰して、搾って……!?
「ギャーーーッ!」
マンドゴラの様に叫んで、私はもらったキャンディを放り投げた。
甘味を味わえるという歓喜が絶望に変わり、私は天井を仰いでえっぐえっぐ泣いた。
「この人、顔に似合わず鬼だな」
スヴェンさんが部屋の端まで吹っ飛んだ棒付きキャンディを眺めながら呟く。
「慣れない『識別の宝珠』にお疲れかと思いまして、冗談が過ぎました。マンドラゴラではなく、普通のトマト飴でございますよ。安心してお召し上がりください」
ヘレナさんが申し訳なさそうに私の頭をなでなでしてくれた。
「……あの飴はヘレナ嬢の手作りか?」
ブルーノさんが静かに問いかける。
「えぇ、お菓子作りが好きなもので」
部屋の空気が少しずつ張り詰めだす。
え、え? 私が泣いてるせい?
もう大丈夫ですぅ、エクシアはこんなに元気ですぅ。
「砂糖は高価な代物。随分と高尚な趣味をお持ちですね、ヘレナ嬢」
「独身ですから。それに少し余裕のあるお給料をいただいておりますので」
ヘレナさんから完全に美人スマイルが消えた。
ブルーノさんも眉を寄せて、少し厳しい顔でヘレナさんに対峙している。
ヘレナさんも、ガチムチな従者を前に少しも怯まない。
はゎ~、どうすればいいの? 私がこれ食べて証拠隠滅しちゃえばいいの?
「一つ思い出しましたわ」
「小さい頃、おこずかいを貯めて砂糖を買って、本当に興味本位でマンドラゴラのキャンディを作ったことがあるんです。あれに神経毒があるなんてまだ知らなかったもので、父と母にはすごく叱られました」
ふっふっふ、と微笑み、ヘレナさんはブルーノさんに背を向けて部屋の隅へ歩き出した。
このタイミングの美人スマイルはなかなかホラーだ。
「当時私は実験などが大好きでして、訳の分からない装置や料理を作っては皆を困らせていました」
拾った棒付きキャンディを手に持ち、再びブルーノさんの前へ。
「だから皆にこう呼ばれていたんです……。『いたずら好きの歩く厄災』って」
ブルーノさんは突然、棒付きキャンディを奪い取った。
そして血相を変えてバンッ! と扉を開けて出て行っちゃった!
「お、おい! 待てって、ブルーノ! あぁ、もう! えくすこたん! 急いでこれにサインして!」
いきなり書類を出された。
聞き返す暇もない。急いでサインをする。
「それじゃ、次は姫さん! ココな!」
「えっ? ボク?」
「早く!」
あーちゃんも急かされて、言われるままにサインしてる。
「ほい。それじゃヘレナ姉さん頼むぜ!」
バタンッ! と今度はスヴェンさんが出て行った。
……あかん。
完全に思考停止。
あーちゃんも事態の急展開に付いていけず、ドアの方を向いてポカンとしてる。
「あらあら、エクシア様のトマト飴が……」
せっかくのお心遣いでしたけど、私、もういらないですぅ……。
「……棒付きキャン……」
あーちゃん、なぁに?
「キャンディ……、いたずら……、厄災……」
限界まで目を開いたあーちゃんがいた。
ドアを向いたまま、ゆっくりと、瞳だけを動かして私を見る。
こ、これは……『おねぇちゃん』を見る目じゃない。
私の体は、湿原で襲ってきたオークを思い出して固まった。
あ、あーちゃん……!?
ヘレナさんは何事もなかったように、スヴェンさんから手渡された
「あら、そういう事なの。女の子同士で……、余程大切な人なのね。アーシャ様、おめでとうございます。祝福させていただきますわ」
あーちゃんは一応ヘレナさんの言葉を聞き取ったっぽいけど、全く頭で咀嚼していなかった。
それはもう、目つきを見れば一目瞭然だった。
ヘレナさんは、あーちゃんの顔前に申請書をピラピラ泳がした。
瞳をやっと私から外してくれたあーちゃんは、申請書を確認。
「お手続き、今すぐ進めてまいります。よ・ろ・し・い・で・す・ね☆」
あーちゃんの瞳がだんだん元の大きさになってきた。
あんぐりと口を開けて顔面蒼白、じゃない、顔面沸騰!
すぐさま申請書をヘレナさんから奪い取ろうとしたけど、申請書を高くかかげられて、あーちゃんの背では届かない……のか?
ほんとに?
いや、ヘレナさんが一枚上手なだけだ。
か~え~せ~よぉぉ。
へーん、こいつ、ラブレターなんか書いてらぁ!
みたいなのが今、私の目の前で繰り広げられている。
そして私の『スネーク・スルー』ばりの回避技を見せたヘレナさんが、申請書と共に部屋の外へ消えていく。
愕然とするあーちゃんは自分の熱でのぼせたのかな、バターンと卒倒しちゃった。
もうその後私は大慌て。あーちゃんをソファに寝かせて頭を冷やしてあげて。
良かった。
私の知ってるあーちゃんだ……。
速攻で戻ってきたヘレナさんがあーちゃんを見て少しびっくりしていたけど、台に載せたカード型
「こちらをどうぞ。アーシャ様と一緒に手に取ってください」
そうは言いますけど、あーちゃんは前後不覚ですよ?
仕方ないので、私がカードを持ってあーちゃんの手に持たせてあげた。
キィン、キィン……、と甲高い音が二回連続で鳴る。
「これで
そう言い終わると、美人スマイルが突然真剣な表情に切り替り、
「……エクシア様、スヴェン様は温かい方です」
ん? 突然、どうしました?
ヘレナさんは思い詰めた表情を浮かべて私の両手をそっと包み込んだ。
「ブルーノ様は聡明で、そしてアーシャ様はとてもお優しい方です。どうか、皆様を信じて」
あーちゃんを卒倒させたこの申請書、実は普通の
通常は作った人専用になるんだって。
若い恋人達からは俗に『
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます