第一章 エクシア王国

第一投 始まりのサイコロ

 お昼のピザ屋は死ぬほど忙しい。

 ピザなのかピッツァなのか、どっちが正解だっけ。


 え? 何? そんなことはどーでもいい?


 えーっと、私はえくすこたん! サイコロ振ったら6が出て……、あ! サイコロの旅してたの。

 面白半分にスケッチブックに異世界って書いたんだ! そしたら……、



「えくすこたん! こっちハンバーグピザ2つお願い!」


「かしこまりましたぁ! オーダー入りまーす。ハンバーグピザ ツー!」



 ……落ち着いてやり直し! コホン。


 私はエクシア・スコールズ。

 16歳の女子高校生。

 

 Fantasficファンタスフィックってサイトにイラストや、それに合わせたショートショートをアップして、仮想通貨の一つEXCエクスコをもらって生きてる、いわゆる仮想通貨女子なのだ!

 サイトのみんなからは、えくすこたんって呼ばれてるよ。

 よろしくね!


 ただ今、学校より大事なことがある気がして迷走中。

 自分探しっていうのかな?

 手始めに、絵が得意だからいろんな所の風景をスケッチしまくってるよ。


 そう、いろんなところの。

 

 というのは現実世界での話。

 今は異世界ピザ屋でウェイトレス見習いしてるの。

 なぜかこの異世界、ピザ屋があるんだよね。


 で、なんでそんなことになってるのかって?

 それはね、つい……魔が刺したというかなんというか。


 まず候補地を6つ、スケッチブックに書きます。

 『1 博多』『2 高知』……みたいにね。

 次にサイコロを振ります。

 それで出た目の場所へ出発します。

 

 つまりスケッチポイントは、完全にサイコロ任せってわけ。


 私、6に『異世界』って書いたんだ…。これ確実にフラグ立ったよね? ね? エヘヘッ☆


 むしゃくしゃしてやった。今は反省してる。

 この旅は日帰りじゃないといけないから、深夜バスはかた号には乗りたくねぇなぐらいしか考えてなかったの。

 まさか本当に異世界転移するなんて、普通思わないじゃない?


 しかも転移の時の魔法陣、辺り一面が眩しいくらいに明るくなる豪華なエフェクトまで付いててね、明日の新聞一面に『光とともに消えた少女! 謎の魔法陣現る!』って載るのは間違いないわ。

 これで私も有名人よ! いやっふぅ!

 ……はぃ、空元気でした~。


 6の目が出たとき、不思議なことにルビが入ったんだよ? 『異世界アルカディア』って。

 誰がやったのかな。何気に芸が細かいよね。

 だから今、私がいる大陸はアルカディアって言うっぽい。


「えくすこちゃん! 3番テーブルお会計だよーっ!」


「はーい、現金ですか? EXCエクスコ払いですか?」


 そうそうこの異世界、仮想通貨まであるの!

 なんと私が貯めてたのと同じ名前の『EXCエクスコ』!

 運命感じちゃうな~。


 でも、現実世界での残高は引き継いでなかったよ。

 Fantasficファンタスフィックでもらった投げ錢、結構貯まってたんだけどなぁ……しょぼん……。

 あ、ちなみに『Fantasficファンタスフィック』って本当にGoogleで検索できるんだよ?

 よかったらしてみてね☆


 

 話を戻すけど、聞いてくれる!?

 どーしよ~。家を出る前にテレビで、取引所がナナシにハッキングされたなんてニュース流れてて……。

 私、9割方はウォレットでガチホなんだけど、旅費とか画材のために少し換金する必要があったのよね。

 もし、私のも被害にあってたら……。

 ここにはパソコンないから確かめる術はないんだけど。


 あ、ナナシってハッキング集団のこと。

 最近、仮想通貨取引所を荒らし回ってるんだ。

 ハッキング、だめ! 絶対!



EXCエクスコ払いですねー。確かに6400EXCエクスコ頂戴しました。ありがとうございます! また来てくださいねっ☆」



 営業スマイル、ゼロEXCエクスコ



 現実世界にいた頃は、働いたら負けって思ってた。

 だってピザ屋のウェイトレスなんてクリエイティブじゃないでしょ?

 でもね。こっちに来てから私、少しだけ変わった気がする。

 あの頃の私は子供だったなって思える。

 偉そうかな!? まだ16歳のひよっ子なのに、てへへ。失礼しました。

 

 まぁ、仮想通貨のことはおいおい分かると思うよ。




 それで、転移のときね。

 光に包まれて意識が飛びそうな中、必死で首からぶら下げたペンダント時計を握ったの。

 

 これはトレーダーだったお父さんの形見。

 

 母さんが言うにはとっても精確なんだって。

 そういえば時刻合わせをしたことないや。

 ルーズなあなたには猫に小判ねっなんて言われけど、豚に真珠じゃなくてよかった~。

 何事も前向きに捉えましょう。


 人ってホント、極限になると意外にくだらないこと考えたりするよね。

 転移の最中、お母さんが作ってくれたリュックの中のお弁当が気になっちゃったんだよ。

 ほうれん草のごま和えと唐揚げはくっついて欲しくないとかさぁ。

 あと、リュックに入れたおやつ。異世界に行くんじゃ300円で足りなかったな、バナナも入れておけば良かったな、とか。


 ホントどうでもええわっ。 



 そしてギリギリ目を開けたら、少年が見えたの。

 悪戯いたずら大好き!って感じ。

 

 を舐めながら、こっちを見て無邪気に笑ってたっけ。

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