第九投 決着

 ブルーノさんは、バルドに投げ飛ばされたシエラちゃんをしっかり胸に受け止めていた。いつの間にそこに行ったの!?

 

「お怪我はないか? シエラ嬢」

 

 シエラちゃんはコクコクうなずいて震えてる。

 いつの間にかあーちゃんもそこにいて、シエラちゃんをブルーノさんから預かってる。

 あーちゃんと、ブルーノさんが何か話しているけど、小声でちょっと聞き取れない。

 

「あいつ、マジくそ野郎だな」

 

 スヴェンさんが爪楊枝でシーシーしながら怒ってる。

 でもあなた、そんな奴に十万EXCエクスコ賭けてませんでしたっけ……。

 

「今日は私も含め、全国民が建国記念日を心から祝っている。本来なら建国祭に泥を塗って、ただで済せるものではないが、お前の汚い血は降らせたくない。一度チャンスをやる。お前の好きな条件で私が勝負を受けてやろう。勝てば賞金も大会の倍出してやる。だが負けたら二度とここへは来るな」

 

 バルドはステージにペッと唾を吐いた。

 

「おもしれぇ。好きな条件って言ったな。それなら決闘だ。お前のそのムカつく顔を二度と見れないようにしてやる! フィジカルブースト使うまでもねぇ!」

 

 バルドは倒れたテーブルの脚を折って、ブンブン振り回してる。

 えぇぇ、あんなに太いの折れるの!?

 

「お前ごときに剣は抜かん。私はこれで充分だ」

 

 そう言ってブルーノさんが手に取ったのは、ん? ピザを運ぶのにウェイトレスさんが使ってたトレー?

 

「ナメてんじゃねぇぇ! うおぉぉおぉ!!」

 

 その巨体からは想像もつかないスピードで、バルドは距離を詰めてテーブルの脚を思い切りぶん回す。

 その勢いは、私のところまで風が届きそうな程だった。

 

「ふん。そろそろ昼寝の時間だ」

 

 ブルーノさんはバルドがテーブルの脚を振り下ろす寸前、トレーを手元で空に向けた。

 本日は晴天、建国祭日和。

 大会のためによく磨かれた銀のトレーは、傾きかけた陽光を鋭く反射してバルドの目を射抜く。

 

「ぐわぁぁぁぁぁ!」

 

 テーブルの脚は空を切って地面に叩きつけられ、派手な音と共に四方八方飛び散った。 

 巨体は、前のめりになったところを後ろに回ったブルーノさんに蹴られて、地面を転る。

 ブルーノさんは仰向けに倒れたバルドの喉を、ブーツでグリッと踏みつけた。

 

「次は容赦なく踏み込む。永久に喋れなくなる前に、この国を出て行け」

 

 歓声が上がった。

 客席からバルドに向かって『帰れ!』コール。

 バルドはほうほうの体で逃げ去って行った。

 

 やったぁ! ブルーノさん、すごいぞ!!

 シエラちゃんも無事だったし。本当に本当に良かった!

 フゥ~ッと脱力すると人間って空を見ちゃうもんだね。

 眩し! は、は、はっくしょん。

 あれ? あの影は鳥……じゃない。私がここに飛ばされたときにも見た……ドラゴン?

 はいはい、ドラゴンちゃんね~。

 魔術とかある世界だもん。ドラゴンだっているいる。

 私もいろいろ慣れてきました、エヘン☆

 でもちょっと、さっきからずっとスヴェンさんが私の前にいてブルーノさん達がよく見えないんだよね。

 あのぅ、どいてくれないかなぁ。

 

「さーて。俺らも近くに行こうか、えくすこたん。後片付け、後片付け」

 

 ブルーノおつ~とか言いながら、スヴェンさんもステージの方に行っちゃった。

 私も行こ……、ガッ。おぉっと、何かに躓いて転ぶところだった。

 これは……テーブルの脚の破片!?

 こんなに大きいのがこっちに飛んできて……。

 じゃぁ、もしスヴェンさんが前にいなかったら……。

 

 

 

「あー畜生~、今月どうやって生活していくかなぁ~」


「スヴェン、全くお前は計画性というものを知らないのか」


「うるせー、これでもなんとか今まで生きてきたんだ!」


「いいか、勝負には必ず勝て。一度の負けが死につながるのだ。勝つのに必要な努力を怠るな。事前にあらゆる情報を集め分析しろ。私は最初からシエラ嬢が勝つと信ずるに足る情報を得ていたから200万EXCを昨日の内に賭けてある。もっと賭けても良かったのだが、余り大金をかけてもオッズが下がるのでな。このくらいがリスクに対する最大利益が見込めると踏んだ」


 本物のギャンブラーがここにいたーーーっ!

 真面目にギャンブルしてたんだこの人。

 あーちゃんのさらに十倍かけてるよっ!

 

「ブルーノ様! 哀れなこのスヴェンに今月の生活費を与え給えっ! いえっ、お貸し下さいませぇっ」

 

「お前、プライドというものはないのか?」


「そのようなもので腹は膨れぬのでございます!」


 スヴェンさん……

 ありがとうの気持ちが萎えたのは、きっと私のせいじゃない。

 

「会場のみなさん! ならず者は退散しました! 優勝者のシエラさんも無事です。少々ハプニングはありましたが、そろそろ、昼のメインイベントが始まる頃合いです。建国祭を楽しみましょう!」


 いつの間にか上がったステージで、あーちゃんが司会者顔負けの心地好いソプラノボイスを会場に届ければ、自然と歓声も湧き上がる。

 

「おねぇちゃん、ちょっと騒がしかったけどそろそろ建国祭昼のメインイベントが始まるよ。こっちに来て」


 あーちゃんの認識ではあれがちょっと騒がしいレベルなのね。

 程なくして、片付けられたステージの上に運び込まれたのは、宝箱よろしく装飾が施された大きな取っ手のついた籠のような不思議な箱。傾き始めた日差しを反射させて眩しいくらい。大きさは正に10ftコンテナ。スヴェンさんの背丈よりも高いんじゃないかな。

 次々と、籠にお賽銭よろしく硬貨を投げ入れる者もいれば、『キィン』と金属音を響かせて籠に触れて行く人もいる。 あ、多分あれEXCエクスコの投げ銭だ。

 

「あーちゃん、シエラちゃんは大丈夫だったの?」


 無事とは聞いたけど、ちょっと心配。


「うん、ちょっと震えてたけど、怪我は無かったから大丈夫。あの子はパパ・エクセリアのウェイトレスさんだから、お店の人に送り届けて貰っているよ」

 

 そっか、あんな健気な子が怪我してたらちょっとどころじゃなくて可愛そうだから心配してたの。無事でよかった。

 ところでお賽銭はそろそろ私たちの順番かな。

 

 カァーン、カァーン、カァーン……


 会場、いや、街中に響き渡る鐘の音。

 

「おねぇちゃん、ちょっと気を付けて」

 

 ん? 何に? と、聞き返す間もなくヒュッと風切り音が聴こえた瞬間襲い来る突風と轟音。

 砂が顔にバチバチバチーーッ!! 目が開けられない!!

 多分、私叫んでるんだけど、自分の声が耳まで届いてこないよ。

 吹き飛ばされそうになりながらも、あーちゃんにしがみついてなんとかこらえる。

 頑張って目を開けると、辺り一帯が暗い。

 え? 日食?

 

 違う。

 さっき見かけたドラゴンが、頭上に迫ってきているのだった。

 

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