第十投 強欲ドラゴン

 さっきは小さく見えたから……。

 ドラゴンとかフツーだしとか思って、すんまっせんしたーーーーっ!

 

 鐘の音と同時に空から降って来たのは、真っ赤なドラゴン。

 羽ばたくでもなく悠然と宙に浮き、しっぽが何かを促すようにゆらめいている。

 

 鱗の一枚一枚が赤熱した溶岩のようで、地肌は岩のようにゴツゴツ。

 翼長といえばいいのか、翼の先から反対側の先までは優に50mはありそう。

 無数の牙を覗かせる口は数人まとめて軽く一飲みにできるだろう。

 おとぎ話の中にしかいなかったそれが、今少し見上げれば翼を広げてそこにいるなんて……。

 

 目は爬虫類とよく似ているように見えて、全くの別物。

 今は籠をとらえて離さないけど、もし視線が合ったら……ダメ。合わせてはいけないと本能が全力で警告してくる。

  

 鱗の無い胸側には7つの古傷。星座よろしく結ぶと、……人参? に見えてきた。は、はは。

 もう少し、こう、世紀末の彼みたいな感じにならなかったのかな。

 頭ではバカなこと考えてるけど、どうしよう、足が震えて笑ってる。

  

 ボスッ。何かで頭を押し付けられた。


「えくすこたん、帽子飛ばされてたぜ」


「あ、ありがとう。……、スヴェンさん! ド、ドラゴン!」


 びっくりしすぎて、ほぼ単語。


「おねぇちゃん、この籠にお金を入れるか、EXCエクスコを送金して一年の無事お願いをするとえくすこぴょんが守ってくれるんだよ」


 あーちゃんは怖がる様子もなく説明してくれた。

 そー言えばこの国、ドラゴンが守り神でえくすこぴょんって呼ばれてるんだっけ?

 なるほど、この籠、国中から集めたお賽銭なのね。金銀財宝を集める習性があるって伝説を、地で行ってるわけね……。

 あーちゃんが籠に触れ、キィンと金属音を響かせると、私に場所を譲ってくれたのだけど、


「え、あ……」


「これどうぞ。さっきの大会、おねぇちゃんのお蔭で賭けに勝てたからね」


 私の手にドラゴンと、剣の意匠が施された金貨を一枚そっと乗せてくれた。


「いいの?」


 あーちゃんが、返事の代わりに天使の笑顔で頷いてくれたよ。私に拒否権など存在しなかった!

 

「えくすこたん、手が届かないんじゃないか? どれ、お兄さんが入れてあげましょうかね? 貸してごらん」


「スヴェン、盗る気だろ」


「ブルーノ! お、お前はそういう目で俺を!」

 

 満場一致で見てます。

 

「手が届かなくても大丈夫ですよーだ! えいっ!」


 銭投げには自信があるのよ。

 初詣で鍛え上げられた日本人の腕を舐めるなっ!


「ニャァッ」


「「「「あっ」」」」


 カリバー君が放り投げられた金貨に反応して飛び上がった!

 

 パシンッ


 ジャリーン

 

 派手な音を立ててカリバー君が籠の中に落ちた。

 カリバー君が弾いた金貨が、コイントスみたいに空中をクルクル回ってる。

 キャッチッ!

 危ない危ない。お金は大事。

 

 カリバー君、ひょっとしてこれを取り損なったの?

 そう思ったのも束の間、辺りの影が濃くなる。 

 

 ぎゃー、うゎ、わぁ、きたぁー!


「おねぇちゃん、伏せて!」


 あーちゃんに押し倒されて、とっさにステージに伏せたよ。

 カ、カリバー君は!?

 急いで体を捻ったらそこには恒例のゆでダコあーちゃん。

 床ドンしちゃってアワアワしてる。

 んも~、女の子同士なんだからそんなに慌てなくても。

 学習能力ないのかなっていうか、そっか、恥ずかしいとか考える暇もなく反射で助けてくれてるんだね。

 ……本当にありがとう、あーちゃん。

 

 

 

 再び空を見上げると、籠を後ろ足で掴んで飛び去って行くえくすこぴょんが遠くに見えた。

 『ギニャー』という鳴き声も一緒に遠ざかっていく。

 あぁ、カリバー君が……。

 

 周囲がざわつき始める。

 特にカリバー君のぬいぐるみ抱えた小さい子供たちが「カリバー! どこー?」ってあちこち探して走り回ってる。

 どういうこと?

 

「カリバー君って実は、エクセリアの知る人ぞ知る隠れマスコット的な存在だったんだよ。あれでも妖精だから神出鬼没で、よくギニャーとか鳴き声だけ残して居なくなるからレアリティが高いんだ。見れてたおねえちゃんはラッキーだったのかも」

 

 はぐれ○タルかっ!

 てっきり、あーちゃんがご主人様かと思っていたけど、猫らしく自由人だったのね。

 残念な気持ちが湧きあがるのはなぜだろう?

 哀れ供物となったカリバー君。妖精だからドラゴンのお腹の中でも生きていけるよねっ!

 

 私は、どうか無事に地球に帰れますようにとえくすこぴょんに一年の無事を祈った。

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