第二十一投 アルカ熱

 皆さんこんにちは! いつも読んでくれてありがとう、えくすこたんです。

 前々回、仕事中に倒れてしまいましたがご安心ください。この通り、すっかり元気になってもう働いています。

 倒れた原因ですか? どうやら異世界特有のウイルスのせいみたいです。どんなウィルスかって言うとね、実は熱に浮かされてあんまり覚えていないんですよね。アハハ……。気が付いたら治ってたんです。あーちゃん達に話を聞いても目をそらして教えてくれないし。憶えていないのはしょうがないから、まぁ、いっかぁ~。皆さんも手洗いうがい忘れないでね☆ それでは第二十一投、どうぞ~。




§




 熱い……。頭がボーッとする。胸を突き上げるような動悸で息苦しいよ、こんなの初めて。

 寝返りをしたら枕元にあーちゃんが突っ伏していた。来てくれてたんだ。心配かけてごめんね、でもありがとう。あーちゃんのネムネムな顔も可愛い……な、うっ。ドクン、ドクン、ドクドクドクドクドクドクドク。

 はぁ、はぁ、ど……、どうしよう苦しい。あーちゃん、あ~ちゃ~ん。


 あ、起きてくれた。寝起きでおめめゴシゴシも可愛い。と、思った瞬間ビックリ顔になった。


「なんだか体が火照って熱いの、あーちゃん、助けて……」


「■〇☆×△?! わ、わあぁ、あ……、えっと、と、とりあえずお水飲んでみよう」


 はぁ、いつも良く分からないタイミングで取り乱すね。ふぅ、あーちゃんはホント表情豊かで小動物感がハンパ無いなぁ。

 あぁっ、お姫様にお水を運ばせてしまったよ。しかも飲もうとしたらふらついて胸元にほとんどこぼしちゃうし。あぁ、体は熱くても服が冷たいと気持ち悪いよぅ、しくしく。


「あーちゃん、はぁはぁ、背中のリボン、外してくれる?」


「!?」


 赤面するのも分かるけど、この制服は背中のリボン外さないと脱げないの。

 あーちゃんは真っ赤になりながらも横たわる私のリボンを外し、制服を胸元までそっとめくってくれた。ありがとう、でもお水を飲みたい。


 試行錯誤の末、あーちゃんの腕を私の背中に回して、起こしてもらうことで解決した。これで飲めそう、ありがとう。本当にありがとう。


 ドクン……、感謝の気持ちがとめどなく湧いてくる。


 私をオークから身を挺して守ってくれたね。照れながらもいつも私を助けてくれて……。あーちゃんって実は男前だよね。あぁ、熱でぼんやりして本当の男の子に見える。きっと今日だって忙しいのに、倒れたって聞いて飛んできてくれたんでしょ? 本当にありがとう。何かお礼しなきゃ……。


「飲めてよかったね、おねえちゃん。他にして欲しい……こ……と」


 私は支えてくれるあーちゃんの顔を引き寄せ、りんごみたいになっているほっぺにキスをした。お礼になるかなぁ。


「☆△〇◆!」


「はぁはぁ、他には、靴下。靴下脱ぎたい」


「は、はひっ?」


 このニーハイソックスは太もものリボンで止まってるだけなの。リボンをほどくあーちゃんの暖かな手が太ももに触れて、少しピクッとした。んん、靴下をすーっとおろす感触もくすぐったくてモゾモゾしちゃう。全身敏感になってるみたい。はぁ、少し涼しくなったよ、ありがとう。チュッ。


 ボボンッ!


 あーちゃんが噴火した。そこまでは予想していたけど、意外なことに次の瞬間、私は力強く抱き寄せられたの。

 

 倒れそうな私の後頭部をしっかり支えてくれてる力強い手は、肩と共に激しく上下した。私の頬とあーちゃんの真っ赤な頬が触れ合う。私達の呼吸と鼓動が重なる。少しでも顔をずらせばそこに高揚したあーちゃん顔、ぷっくりとした唇……。


「エクシア……」


「あーちゃん……」


 目をそっと閉じ……




「あれー!? ブルーノ、ドアの前で何やってんの? 入ればいいじゃん」


 ボスン! 私は支えを失って枕に倒れ込んだ。


「痛っ! 殴んなよ、開けるなって? あ、もしかして中で診察中? でもまだあのじじぃ向こうで診察してたけどな。俺、フローラ呼んでくるから中で待ってろよ、廊下は邪魔だぞ」


 しばしの沈黙。そしてノックの後、カチャリと開くドア。すごい汗だよ、あーちゃん。ガクガクしてるけど大丈夫?


「姫……、エクシア嬢お目覚めですか」


「あ、あ、あの……、ブルーノ……」


「見てません」


「まだ何も言ってないよ! うっ、うわぁぁぁん!」


 部屋を飛び出すあーちゃんをブルーノさんは止めようとしたけど、自分を納得させるように頷いて静かに見送り、ドアを閉めた。


「おや、エクシア嬢。その格好はいただけない。せめて何か羽織りましょう。……ん?」


 ブルーノさんが私の手を取った。あれ? 腕に赤い発疹がたくさん。高熱で肌荒れしちゃったかな。でも熱いからって制服を胸まで下げて、大胆に生足をミニスカートからのぞかせるなんてイケナイよね。

 すぐにブルーノさんは部屋にある棚という棚を開け、私が着れそうなものを探してくれた。

 

 ドクン……、心が感謝で満たされる。


 時には父親の様に見守り、あーちゃんと私を包む大きな人。その安心感がどれだけ私を助けてくれたことか。お礼がしたい。


「む、これは男物か」


 ブルーノさんは大人だから、キスだけじゃダメだよね。


「こっちはシーツか。仕方ない、これで一時しのぎだな」


 こんな時ドラマでは……。


「なんだスヴェン、早かったな。先生は?」


「後で来る。ここのところ森からのけが人が多くて忙しいらしい」


 私をあげるってベッドシーンになるよね。うーん、まだペチャパイだし、逆に申し訳ない。


「中継点までの森の中も魔物の気配がちらほらしてたしな」


「ふむ、被害範囲が広がってきたか。ランスもまだ戻ってない」


「あぁ。こりゃおちおち酒も飲んでられねぇな」


 誠実にいこう。


「ブルーノさん」


「ん? どうしましたか。横になっていていいですよ?」


「……ごめんなさい。私やっぱりどうしても最後まで体はあげられません。せめて二十歳まで待ってもらっていいですか?」


 シーツがバサッと床に落ちた。ブルーノさんは空中を一点集中、珍しく固まった。スヴェンさんが口をあんぐり開けてる。


「お、おっしゃる意味が分かりません。エクシア嬢」


「ですから、もう少し私が大人の体になるまで」


「ブルーノォォォォ!」


 あ、スヴェンさんが乱暴にブルーノさんに掴みかかった。


「見損なったぞ! えくすこたんの制服の乱れはそういうことかぁ!」


「待て! 誤解だ!」


「くっ! 男として仲間としてこんな情けないことはない! 叩きなおしてやる!」


「エクスコ嬢の体をよく見ろ、スヴェン! あの発疹ほっしんはー」


「やっぱりお前、体見てんじゃねぇかぁぁぁ」


 ブルーノさんは自力で何とか逃げ出すと、ドアの外へ出る。


「フ、フローラ嬢に女性用の寝間着をもらってくる。スヴェン、エクシア嬢を頼んだぞ!」


 あぁ、ろくなお礼もできないまま行ってしまった。残されたスヴェンさんは私のベッドの横で膝を付き、頭を下げた。


「すまねぇ、えくすこたん。これはあの男の凶暴さに気が付かなかった俺の責任でもある。謝って済む問題じゃねぇが、すまん!」


 男泣きしてる。スヴェンさん。あなたはいつも人の心を気にかけてくれる温かい人。


 ドクンドクン……、もう心が感謝で溢れかえって止まらない。


 私が心細くない様に、笑えるように、あなたが一番気を使ってくれてるかもしれない。王都までの旅ではあーちゃんと仲良くなれるように会話のムードメーカーになってくれて、刻の宿で泣いた朝、ご飯たくさん食べられたのはスヴェンさん、あなたのおかげだよ。


 お礼しなきゃ。


「スヴェンさん、顔上げて下さい。よいしょ」


 スカートのポケットから自分のカード型魔術具ASICを出した。


「これ、使って下さい。あーちゃんから貰ったEXCエクスコほとんどそのまま入っています。毎日のお給料もマイニング分も溜めてるし」


「なっ」


「ピザ大会で生活費なくなったでしょ? でもしょっちゅうお店にピザを食べに来てくれるから心配だったの」


「えくすこたん……」


 スヴェンさんはカードをすっと押し返した。


「それは大事に取っておきな。気持ちだけもらうよ、サンキュ」


 でもお礼が……、そうだ。


「じゃぁ私の体はどうですか? さっきブルーノさんにあげ損ねてしまいました。でもスヴェンさんなら今の私でも大丈夫な気がします」


「ぶっ! な、なぜブルーノはダメで俺はイケると!? たしかに守備範囲だけれども」


「私、お父さんいないから、大人の男の人ってどう接したらいいか分からなくてちょっと苦手だったんです。でもスヴェンさんのお陰でだいぶ克服できました」


 スヴェンさんの手をそっと包み込み、目を見つめた。伝わって、この思い……。


「あーちゃんやブルーノさんにも感謝でいっぱいで、今わたし、皆さんにすごくお礼がしたいんです。でもこんな状態で絵は描けないから、あげられるのは私だけ」


「えくすこたん……」


「あーちゃんには唇を、ブルーノさんには約束をあげました。EXCを受け取って頂けないなら私にはもう心しか残っていません。あなたのお傍でお世話させてください」


「は? 一生!?」


「ダメ……、ですか?」


 頭をポリポリしてスヴェンサンは、私の手をしっかり握り返してきてくれた。


「……よし、分かった。そこまで言われて断ったら男が廃る。うん、結婚しよう。ただ、先立つものが必要だろ? 金が貯まるまで待ってくれ」


「はい、お待ちしていますね」


「(ふぅ、俺に金なんて貯められるワケがない。実質無効だな)」


「ん? 何か言いましたか?」


「いやー、何も」


 スヴェンさんが立ち上がって振り返ると、あーちゃんが黄金色の業火に焼かれながら立っていた。






「私はフローラ。ここ、ヴァレリア教会付属診療所で看護師をしているわ。よろしくね、エクシアさん」


 私はフローラさんに助けられつつ寝間着にお着換え中。はぁふぅ言ってる私はほぼ着せ替え人形。もうダメ。おじいちゃん先生の診察に完全にお任せ。


「終わったぞぃ。みんな入って来い。……こりゃ立派なアルカ熱じゃ」


「ハート型の発疹も体のあちこちに見られるから、間違いないわね」


「あれは子供しかかからないはずじゃ? 先生、おねえちゃん治りますよね!?」


 はしかみたいなものかな……。


「へつめいひろ、ひひぃ」(説明しろ、じじぃ)


 今ねスヴェンさんの顔はボッコボコ。本気のあーちゃんは強かったぉ。


「お前さん達も良く知っとるじゃろ。別名『三日惚れ』。皆チビの頃やったはずじゃ」


 三日ほれぇ?


「ああ、懐かしいですね。姫もお母様と結婚すると、ボクが守るんだと。女王陛下も大層お喜びになられ「わぁぁあああーーーーーーーー! ブルーノ! 待って! それ以上はダメェー!」」

 

 ちっちゃなあーちゃん、きっとすっごくかぁ~いい~んだろうなぁ。あ~、ドキドキが止まらなぃ。


「熱で浮かれたところに来る激しいドキドキが、恋愛感情と錯覚させるのよね。子供なら三日もすれば熱も落ち着くけど。お兄ちゃんもシスターにね、僕のお嫁さんに「ふろーあ! まへ! はやまるあ!」」(フローラ! まて! 早まるな!)

 

 スヴェンさんも可愛いところあるなぁ。あはは、はぁ、ふぅ。息、苦しい。だんだん、ひどくなっているような……。


「いやはや、大人になってからだとたちが悪いのう。そう言えば、厄災の勇者もこれにかかって大ハーレムを「先生!」」


 やさいのぉ、勇者?


「ほっほっほっ、生娘の前で言う事ではなかったの。失敬、失敬。それにしてもこの娘は珍しいタイプじゃな。大抵は何とかして相手を手に入れようとするものじゃが、好きになった相手へお礼をしようとしたか」


「な? ひゃからおれはわるくないんはって」(だから俺悪くないんだって)


「お兄ちゃん!」


 フローラさんがボコボコの顔をつねったら、ギャーッて。スヴェンさんの、妹さんなんだぁ。私から見たらとっても優しそう、な、お姉さん。ふぅ、看護士さんって、本当に尊敬しちゃう。お礼がしたいよ……、よいしょっとぉ。


「あー、あぶへ」


 あぅぁ。ベッドから、ずり落ちそうに、なって、おにいちゃ、いやスヴェンさんが、受け止めてくれて。

 力強いのに、……安心する。大人の包容力? ありがとう、未来のだんなさまぁ。あるぇ、この気持ちは病気のせいなんだっけ? うーぁ、どうでもいいけどやっぱりお礼がしたい。


 だんなさまだからやっぱり唇に……

 

「「ちょっと、まったぁ!!!」」


 って声がキレ~にハモって、私はあーちゃん、スヴェンさんはフローラさんに引き離されたの。

 それから私は早く治る様にって、魔術具ASICの診察台で『リジェネレーション』と『ピュリファイ』と『キュア』って魔術をいっぺんにかけてもらってね、落ち着いてきたら眠くなってきちゃった……。


 みんな、ありがとう。




§




「あ、おねぇちゃん起きた?」


「んっ、あーちゃん、ありがとう。あれ?」


 私一体何に感謝しているんだろう。あ、お見舞いに来てくれたんだ。


「あ、えーっと、どういたしまして?」


「なんだか、倒れてからの記憶が曖昧なんだけど、お見舞いに来てくれたんだね」


「……そう! 急に倒れたって聞いてびっくりしたんだからね!」


 なぜに顔を赤らめてそっぽ向きながら答えてるのかな? 可愛いすぎてつらい。


「私どのくらい寝てたかな?」


 窓を見れば、そろそろ日が傾く時間なのが分かる。


「んーっと、ボクもさっき来たばっかりだし、分からないナー。気にしたら負けだよ?」

 

 なんか、微妙に会話がかみ合ってない気がするけどまぁ、いっか。……あーーーーっ! いや、良くないです。

 

「夕方からのお仕事が!」


「とりあえず今日くらいはここで休んでいくといいよ。シエラにもそう伝えてあるから」


 あぁ、私のお給料がぁぁぁーー。仕方ない、無理して働いてまたご迷惑をおかけしても申し訳ないし。ここはしっかり治そう。と、思った矢先の事。


 バタン、カッ、カッ、カッ。


 なんだか、病室の外が騒がしい。


「姫様ぁぁーー!」


 ガッ、ガッ、ガッ。


「この声は、……ランスッ!」


 あーちゃんを呼ぶ声の主が段々と近づいてくる。

 

 ガチャッ! 


 そしてノックも無しに、入って来た。


「姫様!」


「ランスじゃないか! 今まで何処に! それにそんなボロボロで……」


 あ、湿原で別れてオークを追って行った人だ……。

 


「姫様、……近衛騎士団長オーランド以下8名、……国の為その身命を彼の地に散らしました。最後に残ったオーランドも私を逃がす為に……」


 それ以上は、言葉にはならなかったみたい……。

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異世界サイコロ旅行 ~姫と絵描きのエクシア王国建国記~ ミルキークイーン @milkyqueen

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