記録2:パン屋

 パンの店には何人かの人が居た。しかし、ここに売られているパンもなんだか奇妙だった。色とりどりの果物が載せられた白パンに、甘い香りの菓子パンもある。しかし、その飾りつけや色の感触が異邦感を感じさせた。しかも、パンはむき出しで置かれている。客たちの動き方を観察すると、私はこの店での買い方を理解した。

 この店ではトレーをもってパンをそこに置き、そして金を支払うらしい。私はおそるおそるトレーを持って、見よう見まねでパンをトレーに置いた。私は3つのパンをトレーに置いて、お会計に向かった。


 私はレジの前の行列に並んだ。私と同じようにいくらかの人は列に並んでいるが、これはつまりユエスレオネの食料生産状況が改善されなかったということであろう。共和制ユエスレオネ政府の統治時代においても、貧民は皆餓えで苦しんでいた。奴らの自分勝手な政治によって数多くの人が酷い目に合った。パンをむき出しで置いていることもその傍証だ。つまり、包装のための資源が足りていないのだろう。私は店員を哀れんだ。


 ついに自分の番が来た。私はトレーを会計台に置いて握っていたレジュ札を叩き付けた。店員は私とお札を繰り返し怪訝そうに見ていた。多分、この店員は不景気で偽札が流通したために私の札を怪しんでいるのだろう。共和派による自分勝手な政治によって不必要な疑いを植え付けられているのだ。

 私は胸を張ってこういった。


「これは偽装通貨ではない。私はユエスレオネ共産党党首、ターフ・ヴィール・イェスカだ。人民を偽札で騙すなどというブルジョア的行為はしない。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る