記録12:四之布の子


 金も持っていなければ、彼らが私達の言葉を理解してくれるわけでもない。血は適当に拭いた。私達はその場から去ろうとしていた。ともかく、このままでは飢え死んでしまう。誰か助けてくれる人を探すべきだろう。だが、ここにいる人はだれもリパライン語を話さないのである。どうしたものだろう、まるでフェヴィアのようだ。だが、私達は少なくともあのような馬鹿で傲慢な人間ではない。


 私達は進んでいた。道すがらで、大声で口論しているのを見た。片方は相手を落ち着かせようとしているみたいだが、相手の少女は人差し指で興奮した様子で、中空を突いていた。私が驚いたのは彼女がスキュリオーティエ時代風の四之布と上着を来ていたことだった。その髪は黒髪で、よく聞くと彼女がリパライン語を話していることが分かった。


 ベルチェは彼女に強い興味を持っているようであった。ここに私達以外のリパラオネ人が居るということは何かの鍵になるかもしれない。だが、これ以上面倒を抱え込むのも嫌だった。私がどうしようかと迷っているとベルチェは吸い込まれるようにして彼女に近づいていった。私が止めることは出来なかった。私は仕方がなく彼女についていった。彼女に先立って、私が少女に話しかけた。


「どうかしたのか?」


 スキュリオーティエ時代の四之布と上着を着た彼女は私を奇妙に見た。彼女の近くで彼女を見た時、私はスキュリオーティエの俗物訳に描かれたユフィアのように彼女のその服装が傲慢さから来ていると感じた。もしくは彼女はただのクローメ学生なのかもしれない。文学のような意味での「クローマ学生」ではなく、意味のわからない中二病の集まりに属しているクローマ学生のことだ。

 そんな事を考えていると、彼女は私を指差した。


「ターフ・ヴィール・イェスカ……?」

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