記録14:憧憬

 ヴェフィサイトとは誇りである。民を守り、国を守る。だからこそ、人々は己の仕事に専念できる――と、彼らは信じている。多くの人がヴェフィサイトに憧れる。イヴァネの民族叙事詩であるスキュリオーティエ叙事詩は教師が小口をぼろぼろにするからである。だからこそ、クローマには夢想的な人間が多い。どのクローマでもだ。目の前の四之布奴も例外ではない。そのうえ、それは手に負えないほどだった。


「私はユフィア・ド・スキュリオーティエなんだ!」


 可哀想なベルチェ、四之布を来た少女が意味のわからないことを言うのを聞いて、相変わらず黙ってしまっていた。

 彼女の意見はどう考えても狂っている。スキュリオーティエ・ユフィアは迷信を信じる者たちの行き過ぎで6500年前に死んだからだ。だが、私の澄み切った頭脳は次のことを理解していた。つまり、私達の現状もあの少女と同じように奇妙だということだ。相変わらず、私達は自分たちが何処に居るのか分かっていない。私が自殺したからだ。しかしながら、周りに居たファイクレオネ人はベルチェと良く分からない妄想を想っている例の少女だけだ。


「君が主人公ユフィアかどうかはどうでもいい。だが、私は聞きたいことがある。」

「どうでもいいじゃないよ!私はユフィア主人公なの!」


 話が進まない。


「わかったわかった、で、少女。私が聞きたいのは……」

「待って、ちゃんと私のことをユフィアって呼んでよ!」

「いい加減にしろ!!」


 話を進めない彼女に私は苛つきを感じた。私が怒鳴っても、彼女は引き下がらなかった。黒い目が静かに私を見ていた。

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