記録7:小さな思い出
歩く町は見覚えのあるものではなかった。まず、今の状況で私が必要としている情報はここがどこであるかということだ。先に考えた情報に従うと、どうやら次のように考えられるらしい。つまり、この地はユエスレオネではないということだ。この風景が、馬鹿で気が狂った政府派の悪辣な偽装工作でないとすれば、地上に残った国家は無いと思っていたが、ここは地上の国家なのだろう。まず最初に探すべきなのは地図だろう。この地がクワイエだろうが、大陸側だろうと、とりあえず自分の居るところを知らなくてはならないだろう。
「地図なんてどこにあるんだ?」
そういえば、思い出したことがある。小銃を自分の胸に向けた理由は自分が完全なエルゼではなかったからだ。ヤツガザキ・センとかいう主人公のせいで、完全なエルゼから弾かれたということだ。まあ、そんなことはこの際どうでもいい。何故まだ私が生きているのかなど、そんなことは知らないが、とにかくとりあえず地図が必要なのである。多分、本屋にでもあるのだろう。
「本屋だと!学生時代を思い出すな!」
街の中に立ち並ぶ店々を見ながら、過去を思い出した。
私がヴェフィス国立研究院大学に居たとき、よく帰り道の道中にある古本屋に行っていた。ローシャヘラ氏の分類学本やら、スキュリオーティエ叙事詩の註解書、などなどそこで読んだ本は数えきれない。そのような本はまだこの地上には残っているのだろうか。
嫌な予感が過った。もしかして、キャスカ・ファルザー・ユミリアの時のように過ぎた記憶は邪魔者と一緒に焼き払ってしまったのではないだろうか?もしそうだとすれば、悲しいことだ。
まだ見ていないものを断言することはできないが、歩いているうちに書店を見つけた。看板は相変わらず意味の分からない文字で書かれているが、ガラス越しに本が積まれているのが見える。薄そうな本だが、あのように多くの雑誌を並べているということは他の本もあるのだろう。
私はその店へと歩き出した。
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