記録20:到着


――ピリフィアー歴1408年


 この時期は中途半端な時期である。非合理な権力闘争の時代が止まり、倫理観のない合理主義者が生まれる。その後にステデラフの偉大な思想の時代が来るのだが、15世紀などというものは戦争の間のたるみである。そのたるみに燐帝の政策に河中の火を言うものが現れて、エフドレスケスがお互いに殴り合い始めたのだ。リネミネをしろとは言わないが、顛末として10月8日事件が起こるのだ。確かにこの時代は平和だが、争いの引き金でもあった。

 それで、最も俗な段階で眼の前の光景として現れた争いの引き金はクローマ生とシャーツニアーの喧嘩であった。


「何処なんだここは?」

「そもそも、何時なんですか!?」


ごもっとも。

眼の前(喧嘩している奴らを除いて)には、ユエスレオネ時代に居た人間なら信じられないような光景が広がっていた。みすぼらしい露天商の屋台が石畳の街道を挟んで並んでいた。市民たちが陽気に値切り交渉をし、卸商人は良く聞いて交渉し返しているようだった。ただ、それは適当な予想だった。何故なら、彼らが話している言葉が良く分からなかったからだ。我々のような現代人が15世紀の言葉など分かるはずもない。


「なんで私達はWD文学みたいな状態になってるんだ?」

「そもそも、ここは別ウェルフィセルではないと思うけどな」


クローマ生が言う。どうやらこの世紀に関する知識を彼女は持っているらしい。面倒を避けるために彼女を望む名で呼ぶことにした。


「ユフィア、ここが何処か分かるか?」

「私、詳しいことは知らないけどリパラオネ共和国かどこかじゃないかな」


クローマ生は空を見上げた。先行きが心配になっていた。


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