記録5:簡素

 全身に広がる熱は力をこみ上げるようにしていた。こんな気分になるのは初めてだった。そもそもよく考えれば、私はウェールフープ可能化剤を使ったことが無い。

 何故なら、私はファークが嫌いだったからだ。若い頃、私はこう思っていた。ウェールフープ可能化剤は全てサームカールトを使って作られていたのだと。しかし、大学に行くにつれて誤りであることを知った。ウェールフープ学はシェルケンの訳の分からない妄信の時代からは高度に進化している。だから、レスプリもパイグ人の血飲みの儀式を真似なくなったという訳だ。私はまた更に賢くなったわけだが、それでもウェールフープ可能化剤は嫌いだった。


 二つ目の理由は、ウェールフープ可能化剤を使う理由が無いということだ。革命の先導者である私が武装して、戦う必要はなかった。そもそも、私の武器は鏃ではない。もし血が欲しいなら、誰でも殺しまくって死体を粉砕し、絞ってるだろう。そんな無意味で虚しいことをやっている暇があれば、私はより多くの労働者を救える。血の海を作ることはそもそも言えば野蛮の果てだ。そういうわけで、可憐な少女である私が武装する状態にはなんの意味もないということだ。


 さて、この特別警察もどき共は未だに私がウェールフープを使える状態であることに気がついていなかった。このシェルケンどもは誰かに電話をしているらしかった。何のためなのかは知らないが、今こそ丁度いいときだろうと思った。


「えいっ」


私は壁に向けて手を翳した。

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