記録15:藩主様


「藩主、答えろ。」


 特に理由は無いが、何が何でもナジャールト藩国のその藩主の名前を言いたくは無かった。

 彼女は英雄だ。だが、最後には仲間たちに殺されてしまう。もし、このクローマ学生がその運命に従うのならば、運命の遂行者は明白になっている。そんな自分を否定するために、私は彼女がスキュリオーティエ・ド・ユフィアであることを否定しなければならなかった。

 彼女はその呼び方でも不満そうだった。


「無礼者め、だがこのままでは話が進まないから話を聞いてあげる。」

「そりゃどうもありがとう!」


 どうしても皮肉っぽくなってしまう。当然のことだ。なぜなら、彼女はずっと無意味なことをやり続けているからだ。彼女がナジャールト藩国のあの藩主かどうかは今重要なことではない。


「どうやってここに来たか覚えているか?」

「どうやって来たか?フラニザとフラニェテュのどちらが先かだな」

「いいから、答えてください。彼女にとって大切なことです。」


私にはベルチェが珍しく苛つきながら話しているように見えた。名も知らないクローマ学生はそれを聞いて、ばつが悪そうにため息をついた。彼女は今までの反抗的な顔を解いた。その表情は何か悲しい出来事を思い出すようであった。


「革命主義者が私の家を焼いて、いつの間にかここに居たんだよ。」

「つまり、それは……死んだということか?」

「殺されたんだよ。」


 ふと申し訳無さが頭をよぎる。つまり、正しい心を持つ階級者にも、悲劇は起こったということだ。ユエスレオネ人民解放戦線に居た時代に私がもっとしっかりしていればそんな悲劇は起こらなかった。そんな感情のなか、私は一つ彼女の言ったことに気づいた点があった。

 それは我々が同じ性質の持ち主であることを明確に表していた。つまり、ここに来る以前の死の共通性である。私の自殺と彼女の焼死は妙な共通点だった。すると、自ずと疑問が湧いてくる。


「ベルチェ、君はここに来る前に死んだのか?」


ベルチェは私のいきなりの質問にあっけにとられていた。

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