記録19:彼
「こんにちは、ターフ・ヴィール・イェスカさん」
私はなにもない広陵な平原にただ立ち尽くしていた。本屋は目の前にはなく、そこには一人男が立っていた。彼――若い男は黒い外套を着て、機械のように私を見ていた。私は周りを見渡したが、誰か人も何か建物もそこには何もなかった。挨拶に答えない私を奇妙に思ったのだろう。男は苦笑いし始めた。
「あなたの声は聞いたことがある。」
しかし、それはとても昔のことだった。八ヶ崎翠に送った手紙に書かれていたのと同じようだった。非現実なことが続くが、それが筋を持っているということが奇妙に感じた。私がエルゼでないのであれば、彼は神なのであろう。もしそうなのであれば、私には聞くべきことがあった。
「何故、私は生きている?」
「俺の作品の中で一番大切な存在だからね」
「私が作品?」
彼の話が奇妙に聞こえて、反射的に答えてしまう。忘れようとしていた記憶を思い出した。思った通り、私はエルゼでは無いのだろうか?
「君がエルゼか、そうでないか。そんなことに意味はないんじゃないかな?」
「何が目的なんだ?」
「特に、君が存在している事自体に意味があるから」
彼の曖昧な物言いに私は苛つき始めた。分からないことだらけだ。眼の前に居る人間がこの意味不明な状況に詳しいと思っていたというのに。
「君たちはピリフィアー歴15世紀の世界に行くことになる」
「なんでまた、そんな物好きの時代を選んだんだ?」
私がそう訊くと、また全ての境界線が曖昧になってきた。少なくとも一回は経験した感覚に恐怖を感じることは無かったが、訊きたかったことはまだ残っていた。しかし、最後に見てはっきり認識できたのは男の興味深そうな表情だった。
「君たちの旅が面白いものになることを願っているよ」
「待っ――」
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