記録18:ユンカーは見守っている


 いつの間にか、私は本のページを捲り続けていた。書かれている内容の殆どはタカン語のような言語によって書かれている。しかし、それに挟まれている断片としての口語のリパライン語は私達を奇妙に安心させた。それよりも奇妙なことはヤツガザキ・センとアレス・シャリヤの出会いについて綴っているらしいことであった。


「ここは異世界では無かったのか?」


 疑問はただ増えるだけだった。今までの私の経験に従うなら、この世界は異世界だ。それでは、ここにある本は矛盾の塊だ。でも、私の手はその本のページを勝手にめくっていた。そして、更にめまいまで感じている。自分のそばに居るベルチェとクローマ生の境界が淡く発光しているのが見える。その光は非現実的な光だった。


「誰だよ、ウェールフープで照らしてんのは?」

「彼女はネートニアーです!」


 ベルチェがクローマ生に反論する。私は二人のいるところからも、自分自身からも、世界からも外在して、外側からそれを見ているようだった。眼前で起きていることは非現実的でなく、自分自身が非現実的だった。ただ、それまでに起きたことよりは非現実的なことでもなかったから、私は落ち着いていた。

 光はより強くなった。糸の焼けるような音が耳ではなく、光るところの体を通して聞こえた。二人の口論する声はどんどんより曖昧に、より小さくなっていく。そして、視界まで消えてしまった。

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