記録6:外出

 制服には砂ぼこりが付いていた。周りでは人々が倒れている。私はバツが悪げに多くの人が倒れているところを通ったが、自分自身怪我一つしていなかった。壁は壊れているし、加えて窓ガラスが粉々になっていた。特別警察もどき共は壁を壊して作った出口にも血を流して倒れていた。どうせならこれらを踏み越えて行こうと思ったが、それは既に不愉快な状態になっていたので避けるようにして外へ出た。


「結局ここは何処なんだ?」


 周囲を見てから、私は言った。リパライン語の看板も広告も見つけられなかった。ヴァルカーザもホートシェートも、植えられてるところを見ることもなかった。フィアンシャに帛䘜を運びに通る阿呆も居ない。フィシャ祭りの後の陽気さの残滓も、アレス・リュズーラート・シェムシヤのローシャヘラ法の香りも、白銀の民の母が練ったバネアートも、ここにはない。ここは少なくともリパラオネ人の土地ではないのだ。では、ラネーメかリナエストの土地だろうか?もしそうだとしても、少なくともリパーシェで書かれたものの一つくらい見てもいいだろう。つまり、それらのどれでもないということは、ここは我々が全く知らない異民族の地であるということになる。


 確かに、連邦共産党党首である私ですら勿論ユエスレオネにいる民族を全て把握しているというわけではない。私が知らない民族がユエスレオネに居たとしてもおかしいことではない。それにしても、リパーシェで書かれたものがないというのはやはりおかしい。革命によって教育も変わったはずだ、そうではないのだろうか?


「革命……」


 そういえば、あの革命は私が死んだあとどうなったのだろうか?フィシャ・ステデラフから続く革命の血はピリフィアーのうちで我々の世代で一番の成果に至った。革命の先導者たる私が居なくなって、革命が成功するだろうか?私には私が心から先導してきた人民たちがどうなったのか気になってきた。私はユエスレオネに帰るべきなんじゃないだろうか?しかし、戻り方はどうやって知ることが出来るのだろう?


「まあ、まずは動かねば!」


私はそう言って、街へと足を踏み出した。

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