第18話 早朝_目覚めの儀式

オセロでもトランプでも、カードゲームもいい。

勝敗があって、人間相手がいるのが大事。

負けて悔しく、知恵を振り絞るのがいい。


ーー


「兄さん、おはよう」


「お、おはよう」


寝ぼけ眼をこすりつつ、布団から立ち上がる。

妹は既にエプロン姿、朝食の卵焼きらしき芳香が鼻に優しい。


時刻を見れば5時50分。

いつもより少し早い。

アラームライトも起動していない。


「いつもより早いな、何かあるのか?」


「朝から兄さんの頭をすっきりさせてあげようかな、とね」


そう言って、妹は折りたたみ式のテーブルを広げ、

どこからともなく、カードの束をその両サイドに置いた。


「え?何するの?」


「カードゲームと言えば決まってるじゃない」


妹は妖しく笑い、

テーブル右側にちょこんと座る。

礼儀正しく、何故か正座。

カードの束を軽快にシャッフルしている。


「さあ、兄さん。デュエルよっ!」


いつものように人差し指ではなく、右手をばっと広げ、歌舞伎役者の如く見栄をきる。


そうして、朝から懐かしいカードゲームに興じる事になった。


ーー


「兄さん、中々の腕ね。久しぶりとはいえ、まさかここまで苦戦するとは予想外だったわ」


ライフは4000、勝負がつくのに10分もかからなかった。

勝敗は後一歩のところで妹の勝ち。

知らないデッキ、久しぶりのカードゲームにしては、善戦したほうだと思う。


「ブランクがあって、起き抜けの頭で、チェーン関与で『タイミングを逃させる』なんて、流石は学生時代、デュエリストを名乗っていただけはあるわね」


名乗ってないよ、と突っ込みの言葉は胸に閉まっておく。


「だけど、私の『ランクアップ黒咲〜アンティークギア添え』にここまで拮抗するとは本当に驚きだよ」


そんなデッキ名だったのか。

途中、召喚口上らしき言葉がたくさん出ていたのは、アニメのキャラクターだったからか。

朝から賑やかな始まりだった。


しかし、カードゲームというのは悪くないな。

相手の思考を読み、

自らの戦略を練り、

勝ちに向かってひたはしる。

スポーツとは別の爽快感。

負けはしたが、なんとも言えない気持ち良さがある。

朝の眠気が吹き飛ぶ程度には、

少なくとも。


「どう?目は覚めた?」


「言われて見れば、二度寝の願望はかけらもないな」


「これが二度寝防止策。デュエリスト用だけどね」


妹はピンと人差し指をたてる、いつものように。


「今は時代が発展して、アプリもあるからね。こうやって、実際のカードを使って、対面の対人でプレイした方が目は覚めやすいかもだけど。けどまあ、CPUではなくて画面の向こうに人がいる、と思うとデュエリストならば自然に全力で思考を回すよね」


「まあ、確かにそうだけど。なんともお前らしからぬ科学的根拠のない手法だな」


私の言葉に、妹は笑う。

けらっと、

薄く、

軽く。


「効果があれば、根拠があろうとなかろうと同じことだよ。それに、古代エジプト発祥のこのゲームは科学を超越する代物だからね」


それに、と妹は続ける。


「世の中には、科学で解明すべきことも、別にしなくてもいいこともあるんだからさ」


と、結んだ。

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