第22話明日のタスクリストを作ろう
明日、これだけはやるということを最大三つまで作る
それだけは必ずやる
何も作っていないと、その三つすらできない。
なら、毎日三つずつ、否、一つずつでもいいから成長しよう
ーー
開発職という仕事には終わりがない。
敗北条件はあるが、勝利条件は明確ではない。
より高性能、
より低コスト、
より安定生産、
えとせとら、えとせとら。
追求すべき要素は、往々にして他のそれとトレードオフではあるけれど、常にその限界と最適化を行う仕事。
携わるまでは、この世になかった新しいものを作るという『イメージ』に踊らされ、憧れていた。
しかし、いざ自身がその職業につくと現実を突きつけられる。
幻想は砕かれ、
掛け値なしの醜悪な現実の中に私はいる。
さて、明日はどうしようか。
手帳を見ながら、明日の計画を練る。
テーマ会議用の資料の作成、
後輩への分析機器の技術指導、
次回試作の配合検討、
……、
…………、
週報の記入、
協力工場への顔出し、
出張先へのお土産購入、
研究報告会の議事録作成ーー
「いやはや、兄さんのタスクリストはいっぱいだね」
ずずいと、背後から妹が首を伸ばす。
文字がびっしりと書かれたルーズリーフを手に取り、ふむふむと頷く。
「これ、明日やる仕事内容?」
彼女は怪訝そうに尋ねる。
「ああ、そうだ」
妹はため息混じりにうなだれ、
その後、私の顔をじっと見る。
何か言いたげな目だ、
併せて何か嫌な予感がする。
「えいっ」
にっこり笑顔とともに、私の1時間の大作はびりびりと音を立てて破られた。
「なっ、なああー」
変な悲鳴とともに、二分割されたルーズリーフに目を落とす。
セロハンテープで止めれば、まだ修繕は可能。
大丈夫、大丈夫だ。
「よいっしょ」
だが、そうでもなかった。
妹は私から両方とも奪い取り、
今度は乱暴に、
ランダムに破り捨てた。
シュレッダーの如き、粉微塵。
縦に、
横に、
斜めに、
裂いた。
「兄さん、人間の作業量には限界があるよ。やるべきことをやるのは確かにいいことだよ。だけどさ」
散らばったルーズリーフ、
最早ただの紙切れとなったそれを抱える私に妹は言う。
「それが全部できたら、もう人間じゃないよ。偉人を超えた、何かだよ」
とゴミ箱を差し出した。
「えい」
私の両手から、タスクリストの残滓をはたき落とす。
紙吹雪のように、ゴミ箱へと舞い落ちる。
「これでまっさら」
妹はすっきりしたような顔で、私を見る。
そして、人差し指を立てる。
「1日は24時間しかない。バカも間抜けも天才も、同じように。だから、選ばないといけない、優先順位をつけないといけない。けど、視界にちらつくどうでもいいタスク、簡単なタスク程手をつけやすい。そして、安易に走って主目的を忘れる」
目をつぶり、囁くように続ける。
「ペーパーテストなら、それでいい。点数かせぎ、大いにけっこう。だけれど現実は違う。難度と配点の相関はない。やりたいこと、簡単なことばかりしてたら、やるべきことや難しいことは一生チャレンジできないし、クリアできない」
妹は私の机から一枚ルーズリーフを取り出し、点を三つ打つ。
「だから、せいぜい三つまでにしときなさい。三つだけ。だけど、必ずやりきると誓う」
そうすれば、兄さんの毎日の焦燥感も多少は和らぐのではなくて、と上品に続けた。
妹がいる日常 ー生活習慣改善日記ー 虹色 @nococox
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