第20話アイデア記録は携帯のメモで

「ふふんっ、ふふふ、ふっふっふ♪」


鼻歌交じりでノリノリの妹。

基本、笑顔な彼女であるが、今日はいつもにも増して上機嫌である。

何か良いことでもあったのだろうか。


私はあまり音楽を聞く方ではないので、彼女の鼻歌が何の曲なのかはまるで検討はつかなかった。

だけれど、そのアップテンポな感じは私の知る曲ではない、ということだけは理解できた。


「何か良いことでもあったのか?」


「いや、何も。むしろ何もないからこそ、鼻歌を歌ってテンションをあげていたところ」


何もなかった。

真顔で答えられた。


「笑う門には福来る、ってやつだよ。ご機嫌を装えば、自然ご機嫌になるんだよ」


まあ、やりすぎはメンタル病むから注意だけどね、と人差し指を立てた。


「全然話変わるけど、兄さんは携帯のメモ機能って使ってる?」


唐突だった。


「いや、そこまで使ってないけれど」


メモするよりも、写真にとる方が多い。

というか、文字記録は未だにアナログ派だ。

手帳に記録することが大概だ。

そのため、スケジュール帳のメモ欄は既にパンクしている。故に、メモ用のメモ帳をスケジュール帳の拡張パックにしている。

これを機に、リフィルが充填できるシステム手帳に変えるのも良いかもしれない。


「そっか、兄さんはそこらへんがアナログ派だもんね。まあ、それもいいかもしれないけど」


けどさ、と妹は妹は続ける。


「兄さん、字汚いよね。それ、読み返すことある?てか読み返せる?」


返す言葉がなかった。

自身の字が綺麗でないことは重々自覚している。

丁寧に時間をかけても、お世辞にも上手ては言えない字だ。

無論、読めないことはないが、汚い。

男で例えると、『優しい人』だ。

つまり、褒める要素がないということ。


「その辺、デジタルメモはいいよ。誰が書いても美しい字、ペンも消しゴムもいらない、無限に近い容量!」


妹は歌うように、

携帯のメモ機能を讃える。


「いつ記録したかも自動で記録されるし、携帯だから基本持ち歩いている。イージーアクセス、イージートライ!」


くるくると空間を広く使う、

踊るように、舞う。


「だからそろそろ人類は、メモ帳を卒業する必要があるのかもね」


妹は私のカバンから、メモ帳を取り出す。


「けどま、電池切れとか本気のハッカー相手には無防備とか、色々課題は残るのだけどね」


それに、と妹は続ける。


「私のように、速記でも字がうまい人にとっては、言うほど大事じゃなかったりもする」


さらさらと、メモ帳の一ページに何かを記す。

そこにはーー


「あと、手書きの方が、思いは伝わるからね。気持ちが筆に乗る、ってことかな」


そう言って、妹は笑った。

私は、突き出された妹の思いを見て、にやけた。

その言葉がなんだったか、それは私の胸の内に秘めておこう。

恥ずかしさで、声が出ない、というのもあるけれど。

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