第13話 気分の上げ方

「あー鬱だ」


どんよりとした天気。

減らない持ち帰り仕事の山。

テンションが上がらない。


「兄さん、そんな軽々しく『鬱』だ、なんて言わないで」


塞ぎ込んでいると、妹から声をかけられた。


「とりあえず、お手軽な鬱状態の改善方法、3つ教えてあげるから」


と、妹はいつものように、人差し指をピンと立てる。


「1つ目はどこか出かけること。家と鬱な状態が紐づけられているパターンが多いからね。『鬱のとき、家にいる』、ではなくて『家にいるとき、鬱になる』、と体が誤認しているパターンがあるの」


妹は、続ける。


「まあ、つまるところ、家から出てしまおうというお話。あ、でも『仕事出る時、家に帰るときに外出てるけど変わらないよ』とか反論しないでね。そのときの外に出るという行為は『義務』、今提案しているのは、あくまで『遊び』の側面が強いから。気分転換」


けど、今日は天気が悪いし時間も遅いから、使いづらい手段だけど、としょんぼり妹は付け加えた。


「2つ目はゲームだね。単純なゲーム。頭使わない、レベル上げとかのがいいかな。ソーシャルゲームのイベント周回でもいい。ただひたすらに、与えられたタスクを淡々とこなす。その時、何も考えない。ただ目の前のレベル上げに集中する。ある意味、瞑想だね。もう飽きたー、指が限界だぜーってくらいまで続けてみて。すると、その反動で、やる気が湧いてくるから」


これは、そのまま廃人パターンがあるから、あまりオススメできないけれど。

さっきから、微妙なものばかり提案されている気がする。


「じゃあ、3つ目は?」


期待と共に、私から質問してみた。

すると、ドスンと、妹は重く硬い『何か』を机の上に置いた。

ダンベルである。


「筋トレ。やれば、テストステロン値もテンションも上がる。天気も時間も関係なし。廃人になる程はやれないし、仮になってもムキムキボディになるだけだから、さして問題なし」


なるほど、俗に言う最強の解決法を提案された。

無言のダンベルが、頼もしく見えてくれる。


「それでも治らなかったらーー」


その時は一緒に考えよう、と妹は言った。


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