第12話 机の上の片付け方

「兄さん、自分の机の上くらいちゃんと片付けたら?」


プンスカと怒る妹。

確かに、妹の言う通り、私の机の上は散らかっていた。

開きっぱなしのノートパソコン、

散乱した仕事関連書類、

放置されたままのボールペン、

ーーそのほか、色々。


「机の上は所有者の頭の中、とはよく言ったものだよ。そして逆もまた然り。兄さんの頭の中をクリーンにするためにも、机の上を片付けるね」


そう言うと、妹はノートパソコンを床に降ろした。

そして、深呼吸をすると、散らかった私の机の上に、自身の腕を置いた。


「ざばーん」


と、荒波の如く、その腕を右から左へと、スライドさせた。

すると、どうだろう。置いてあった書類たちは床に落下し、放置されていたボールペンたちも、からんころんと落下した。


「ね、綺麗になったでしょ」


どやぁ、と妹は笑った。

いや、どや顔される程の事ではない。机と床の状態が逆転したに過ぎない。

むしろ、四方に散らばった分、部屋全体はさっきより汚くなったと言って過言ではない。

私は、ため息をこぼしながら、落下したボールペン達を拾った。

すると、妹が笑顔でゴミ箱を持ってきた。


「兄さんの手には、ボールペン、何本あるのかな」


拾ったボールペンの数は、6本だった。さっきの人的津波により、行方不明になっていたボールペンたちも巻き込まれていたらしい。


「はい、その中から一本だけ必要なの選んで」


「え?」


「だから、兄さんが使うべき『一本』を選んで、残り五本はこの中に捨てて。そう言っているの」


妹は続ける。

語気を強めながら。


「今まで見つからなかったこのこたちは、逆に言えば死んだことになっていた。つまりは、兄さんにとって必要ないものだったんだよね。言い方は悪いけど、ゴミなんだよ」


「そんな、せっかく見つけたのに捨てるなんてできない」


ボールペンに感情移入するのはおかしいかもしれない。

だが、助かった命を改めて自分の意思で摘み取るなんてことはーー


「駄目だよ。でないと兄さんは同じことを繰り返す。ボールペンをなくしては捨ててを繰り返す。そもそも、行方不明になった時点でこの子達は死んでる、否、兄さんが既に殺しているんだよ」


妹は真剣な眼差しで私を見つめる。

私に迷う権利なんて存在しないことを諭す。


「すまない」


私は謝罪の言葉とともに、救いあげたボールペン達をゴミ箱へと葬った。


「必要なのは謝罪の言葉じゃない。二度と彼らのような犠牲を出さない、そんな決意だよ」


と、妹はいつものように人差し指をピンと立てて、締めくくった、

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