第7話 太陽光は大事 テラス席のススメ
「たまには外にでかけたら?」
とある昼下がりの日曜日、妹は唐突に私に言い放った。
「天気も快晴だし、兄さん、基本仕事以外ーーというか、仕事も屋根の下なのだから、たまには太陽の下に出ないと」
「けど、これといってやりたいこともないしな」
「またそんなこと言って……」
ぷんすかと怒る妹。
確かに、今日は快晴である。雲ひとつない青空。太陽が燦々と輝いている。布団を干すには良い日だーーなんて言うと、『お前も布団と同じ干されてこい』と説教を喰らいかねない。
無趣味な私にとって、天気は大した問題ではない。妹が来るまでは、基本土日は家事をするか、体力回復のために眠ったりぼんやり本を読むばかりだった。
「痛っ」
後頭部に鈍痛を感じた。振り返れば、妹が本を片手に立っていた。
「兄さん、人間も布団と一緒でたまには外に干さないと、カビが生えるんだよ」
「カビの前にコブができそうだよ。なかなかの馬鹿力だな」
「馬鹿力ではなく『妹力』だよ、兄さん」
そう言って、コミカルにハハハと笑う妹。そして、その笑いがおさまると、持っていた本をポンと渡した。本のタイトルは『特殊相対性理論の全て』。……こんな本、持っていた覚えがない。また妹が謎のコミュニティから借りてきたのだろうか。
「読書は室内でするのもいいけど、自然の中でするのもいいものだよ。別に兄さん、可愛い妹とこうして戯れる以外は暇しているのだから、場所くらいかえてみたら」
そう言って、妹はちょこんと私の隣に座った。
そして、人差し指をピンと立てて、語りはじめた。いつものように、得意げに。
「太陽は、別に草木だけに必要なものじゃないんだよね。人間にも必要なんだよ。ビタミンDとかの栄養素をつくるためには太陽光は必要なんだよね。インドア生活ばかりだと、人間は精神的だけでなく栄養的にも枯れてしまうのですよ」
「なるほどな。だから私は枯れかけていたのか」
そういうことです、と妹は笑う。
「よく、喫茶店のテラス席でノートパソコン広げて作業している人たちがいるけど、あれはあながち間違っていないんだよね。普通に家とか職場のデスクで作業するよりも健康的だからね。それに、ああいう場だと、それしか作業できないから集中できるんだよ。家とかだと、集中が途切れやすいというのもそういう理由」
とりわけ私みたく魅力的な妹がいると特に途切れやすいね、と妹は付け加えた。
「まあ、私は兄さんにとっては太陽のような存在かもしれないけれどね。こんな理由もあるから、ちゃんと外にでないと。私の存在だけじゃ、ビダミンは作れないんだよ」
と、妹は笑った。
結局、促されるままに私は家を出た。渡された本の内容を理解できる自信はまるでないけれど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます