第15話 意味のないことを頑張っても意味はなし


「今日も今日とて、兄さんは忙しいそうね」


と、妹は哀れみの眼差しを私におくる。

それも仕方がないことだ。

持ち帰りの仕事が終わらなくて、『明日早く起きてやろう』と意気込んで眠ったはいいが、その進捗が芳しくない。妹に用意してもらった朝食を片手に、ノートパソコンで打ち合わせ用の資料をまとめている。


「兄さんに良い言葉を教えてあげよう」


と、妹は指をピンと立てる。

そして、その立てた指を、

ーーそのまま私のノートパソコンの電源ボタンの上に置いた。


「おい、ちょっと、」


1秒、

2秒、

3秒ーー


「やっても意味のないことを、どれだけ頑張ってやっても、それは意味のないことなんだよ」


電源が落ちる。

ディスプレイが暗転する。

私の努力も、データの闇に消えた。


「ゼロに那由多をかけても、ゼロにしかならないんだよ」


絶望に打ちひしがれる私を、妹は優しく撫でた。


「大丈夫。そんな資料1つ欠けたところで、死にはしないよ。それに、そもそも持ち帰り仕事して、さらに間に合ってないということは、これは兄さんの能力を越えた案件だった、ということさ」


妹は、諭すように続ける。

少し、慰めるような口調で。


「つまりは、悪いのは兄さんじゃなくて適切に仕事量を配分できていない上司のほうさ。だから、一言謝って、笑って済ませばいいじゃない」


と、妹は笑った。

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