第9話 爽やかな目覚め方


「兄さん、朝ですよー」


妹にゆさゆさと揺らされる。

眠気まなこをこすりながら、時計を確認するーーもう6時か。

早く起きて、仕事へ行く準備をしなくては。


……だが、眠い。

なんだろう。この圧倒的眠さ。

ほっこり温まった布団が愛おしくてたまらない。

もっと布団と一緒にいたい。

このまま布団に抱かれて眠りたい。

二度寝の欲望が止まらない。

それに、まだ6時だ。あと5分くらい布団と時を過ごしても、職場までの徒歩ルートを早歩きにすれば問題ないはずだ。


「兄さん……寝てる……早く……」


眠気とともに、妹の声がぼやけて聞こえる。

いいじゃないか、このまま少し眠ってしまおう。本当に不味い時間になったら、妹が物理的に起こしてくれるだろうしーー


「まぶしっ!」


半端に開けた視界が、強烈な光で満たされる。

なにこれ、また妹が何か使ったのか。


「おはよう、兄さん。もう約束の5分は経ちましたよー」


ピカピカと、片手に持ったライトを点滅させる妹。なるほど、先ほどの光はこれだったのか。


「なんだ、また何か買ったのか?」


「いや、これは貰い物だよー。お隣さんが、もう使わなくなったからってくれたの」


妹はライトを机におくと、私の体を引っ張った。


「ほら、もう朝ごはんできてるから、続きは後で説明するね」


ーー


食卓につくと、妹はいつものように、指をピンと立てた。


「普通、朝起きなくちゃいけないときって、目覚まし時計でアラームーーだいたい『音』を使っておきるけど、それってあんまり良くないの」


それは意外だった。目覚まし時計ってずっと変わってないからあの形が最適解だと思っていた。


「音だと、体が敵襲にあったと緊急モードになるんだよ。だから無駄に疲れるし、ストレスが溜まる。古来、人間はそうやって過ごしてきたからね。音に敏感なんだよ。叫び声とか、鐘の音って、昔からあるからね。進化論的考え方、というやつですな」


博士っぽく、妹は言った。


「あと、スヌーズ機能ってあるでしょ。一度止めても、時間をおいてまた鳴るっていうあれ。あんまり良くないのです。あれで起きている人は、音がなったら起きる、じゃなくて、音がなったら止める、という方向で習慣化が起きてしまうのじゃ」


博士とノーマルがごちゃごちゃになっていた。


「付け加えると、けっこうアラームって周りに気を使うし、実際迷惑だからね。うるさいし。その点、光なら安心。うるさくないし、体にも優しいからね。目をつむっても、光を完全に遮断できるわけじゃないから、今の兄さんみたいに、わるとパッと起きれるしね。まあこれも、スヌーズ使うと、消すことと習慣で紐付けしちゃうと、効果薄くなるから注意だけども」


妹は続ける。


「そもそも、2度寝するということは、1回目に十分眠れてないことの裏返しだからね。普通の睡眠で満足できていないから、二度寝しちゃうのだよ。だから、前説明したように、眠りの質そのものをあげることも大事かな。まあ、こうして一度目覚めてしまえば、もう一回寝たい、なんて思わないでしょ。だから最終手段としては、朝布団と別れるために、二度寝より重要なものを用意しておくことがいいのかもね」


そう言うと、妹は私の後ろに回り込む。


「例えばーー」


そして、耳打ちするように囁く。

甘く、

悪戯っぽく、

誘うように囁く。


「裸エプロン姿の妹とかね」


ーー


翌日以降、私は朝パッと目覚めることができるようになった。

どの手法が1番効果があったのはわからない。

だが、それはたぶんきっとーー


「兄さん、今日もお早いお目覚めね」

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