第17話 習慣化のテクニック
思考をはさまない
毎日無理なく続けられる
複数の習慣を組み合わせる、それが目的達成への一番の近道。
ーー
「今日は習慣化のお話をしましょうか」
前振りもなく、
唐突に妹は言った。
「どうした、いきなりだな」
「たまには、いきなりでもいいでしょ? 最近、こうして喋るのも久しぶりな気がするし」
そんな事を言いながら、ちょこんと私の隣に座る。
柔軟剤かシャンプーの匂いか、
とにかく芳香が鼻に優しい。
「こういう日常がいつまでも続くとは限らないし。ほら、並行世界の私たちは誰かか、何かと戦っているのかもしれないしね」
「戦うって、何と?」
「それゃ、私と兄さんを害する何かと、だよ」
妹は悪戯っぽく笑った。
そして、「それでね」と話を戻した。
「習慣化のお話なんだけど、兄さんは習慣にしたいーーつまり毎日続けたいことって何かある?」
妹の問いに、言葉に詰まった。
これといって、毎日やるべきことも思い浮かばない。
学生時代だったら、勉強とか部活の練習とか、そういうものが思い浮かぶが。
あの時は、
面倒だからとか、
眠いとか、
色んな理由をつけてサボっていたっけ。
懐かしいの青春時代。
怠けの権化だったはずの私が、今や立派な社畜だ。
人生どこで変わるか分からない。
「うんうん、筋トレが続かない、と」
何も言っていないのに、話が進んだ。
確かに、前に勧められた筋トレは全くといっていいほど続けられていないが。
仕事帰りーー疲れてやる気になれない。
休日ーーせっかくの休みの日に動きたくない。
早朝ーー筋トレのために早く起きたくない。
誰かに、
何かに、
強制されないと動かない。
今一度自省してみると、私の本質は変わっていないようだ。
「そんな兄さんに紹介するのが、習慣化の手法だよ」
人差し指をピンと立て、
にっこりスマイル。
「兄さんは、毎日必ずしてることって何?」
妹の疑問に、素直に1日を振り返る。
朝起きる、
ご飯を食べる、
歯を磨く、
トイレに行く、
着替える、
仕事に行くーー
「ストップっ!」
両手を勢いよく前に出し、思考を中断させる。
今日も元気な我が妹。
「全部は振り返らなくていいよ。兄さんが毎朝、私への感謝の祈りを捧げていることは、言わなくても、思い出さなくても知ってるから」
いや、祈ってないよ。
まあ、感謝はしているけど。
「振り返るまでもなく、兄さんは毎日起きるし、毎日ご飯食べるし、毎日歯を磨くよね」
「それは、そうだな」
起きない朝はないし、
ご飯は必ず一食は食べるし、
毎朝歯を磨く。
誰に強制されるわけでもなく、
それが『当たり前』だから。
それをしないと、『生きられない』から。
歯は最悪磨かなくても生きれるかもしれないが、今の食生活なら十中八九虫歯になるだろうな。
「だからね、その毎日必ずやる行動に、目的の行動ーー例えば筋トレを組み込めばいいんだよ」
妹はそう言ってメモ帳を取り出し、図化する。
すらすらと
さらさらと。
『ベットから起きる→スクワット5回→ご飯を食べる→歯を磨きつつダンベル5回ずつ→着替える→妹への感謝の言葉といってきます→仕事へ』
「まあ、こんな感じかな」
余分な工程が紛れ込んでいる気がする。
だが、あえて突っ込みは入れない。
「こうやって、毎日する行動にサンドすれば、やり忘れ防止になるからね。回数も少ないから、忘れても思い出せばすぐできるし」
「けど、5回って少なくないか?」
私の問いに、妹はやれやれと言う感じに深いため息をした。
「1回もしていない人が、そういうこと言わない。100回やるためには、1回始めないといけないし、5回はやらないといけない。ハードルは低く、数をこなす。最初から一気にたくさんやろうと思うから、初心者は挫折するんだよ」
そう言って、頭を小突かれた。
あまり、痛くはなかったが、
かけられた言葉は耳に痛かった。
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