第24話
ジリリリリリ。 ジリッリリリリ。
けたたましく鳴る目覚ましを力いっぱい殴りつけながら止めると乱暴に玄関の扉を閉めて仕事場へと向かう。
状況はあれから一度も良好に向かうことなく悪化し続けている。
毎日朝から晩まで一日中イラだってしまい、それはハーブをやっても変わらない。
むしろハーブをすることによって怒りが増幅してストレスになっているというのに相変わらず俺はハーブをやり続けていた。
少し前まで楽しんでいたハーブは軒並み販売禁止となり、新作のハーブももはや初期のようなマッタリとした快感では無く、妙に心をソワソワとした気持ちへと変えていく。
現行のハーブはもはや初期のものとは全く違うものへと変わっているというのに俺はいまだにハーブを諦めきれずにいた。
その苛立ちがさらに精神状態を悪化させていく。
いつになったら奴隷身分である俺はまたあの世界にもどれるんだろうか?
毎日毎日とくだらない仕事をこなし、貴重な時間を食いつぶしていく日々にどんどん心がひび割れていくのを感じていた。
苛立つといえばもう一つあった。
染谷とはあの後、どちらともなく仲直りをした。
お互いにあの時は気が立っていたんだなと曖昧に誤魔化して、どうしてそうなってしまったのかは語り合うことは無かった。
そんなことはどうだってよかったからだ。
いまは俺も染谷も消えていくハーブの残量だけを気にし、また品質の良いそれを求め続けていた。
これほど素晴らしいものが消えるはずが無い。
かならずバイヤーがまた良品を見つけてくれるのだと、まるで当ての無い未来を語り合っている周りの人間たちのように思えるが仕方の無いことだ。
だが、やがてそれを先に諦めたのは染谷だった。
「いい加減、もう身体に悪いから辞めるわ」
一人でいると悪いことばかり考えてしまうので、誘った電話口の向こうで後ろめたそうに奴は言った。
「まあもう少し待てよ、そのうち良いのがでてくるからさ」
ピキリとこめかみに走る怒りをかみ殺しながら言う俺に、
「いずれっていつ来るんだよ?ハーブはもう終わりだ、それに最近ますます欝がひどくなってきたんだ…頭だって痛いし」
「わかったよ…また良いのが入ったら教えるわ」
「お前もそろそろ辞めておけよ」
切り際の言葉にも怒声を耐えて、切った後に携帯電話を乱暴に投げつける。
いずれ? そんなの知るか! だが今更諦めることなどできるわけがない。
くだらない仕事、くだらない同僚、くだらない日々、くだらない人生。
そのどれもが俺達の心を、人生を破壊していく。
ハーブを諦めてしまえば、どっぷりとそのくだらない物に塗れていくんだ。
だから足掻くしかない。
それまで毎日を歯を噛み締めて耐え続けていくしかないのだ。
だから早く! お願いだから一日でも早く! 俺をこの世界から救い出してほしい。
誰にも聞かれないように心の中で強く叫ぶ。
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