第27話
それから数ヵ月たった。
俺の生活は相変わらずだ。
朝に起きて仕事をして、疲れ果てた身体を布団に投げ出して寝て、また仕事に行く。
変わったことといえばハーブはもうやっていない。
もちろんリキッドもだ。
あの事故は報道され、緩やかであったハーブ規制は嘘のように対策が施されていき、それに伴って全国に僅かながらに残っていた販売店を根こそぎ消していった。
もはやハーブを手に入れる手段は無い。
あるとすれば胡散臭いサイトでの手渡しか通販くらいだろうが、それもすぐに無くなっていくだろう。
いま考えれば、あのときこそが俺にとっての最後の機会だったのだろう。
ハーブをやめるか続けて人生を転げ落ちていくか。
あの時に持っていたハーブはすぐにその場に捨てて、家に残っていた物も全てトイレに流した。
その後は一口たりとも吸っていない。
心配していた禁断症状は無く、イラだつのも最近になっておさまってきた。
ときたま強烈に吸いたくなる日もあるが、もはや手に入らないのだから酒を少し飲んで寝てしまえば収まってしまう。
何のことはない。 昔に戻っただけだ。
この辛く苦しい社会の中の底辺で蠢きいずれは押しつぶされるか死んでいくただ一人の奴隷予備軍に戻っただけ。
その中でも人間は順応していく。
あるいは代わりを見つけていく。
無ければ無いなりの楽しみとして映画を見て、音楽を聴き、あとは泥のように寝る。
染谷との関係は戻っていない。
だが死んだという話を聞かないところを考えるとあいつもまた俺と同じように生きているのだろう。
いずれこちらから『久しぶり』とメールでも送るとしよう。
「おつかれさまです」
死んだ瞳で同僚達に終業を言って帰る帰宅途上で俺はドラッグストアによる。
慎重に店内を歩き、風邪薬コーナーを探す。
そして目的のものを見つけて二瓶レジに持っていく。
そしてわざとらしく咳をする振りをしながら順番を待つ。
だがレジ係の店員が、
「もうしわけありません。これは二本以上お売りできないんです」
申し訳そうに謝ってくる。
ちっ、ここはなかなかちゃんとしているな。
内心の舌打ちを隠して、なんでもないように、
「ああ、そうですか…それじゃ一本でもいいですよ」
なんでもないようにそう答えて俺は店を出た。
そして待ちきれないように包みを開けて、リキッドを飲むときのように一緒に買ったジュースでビンの中身を流し込んだ。
そしてそのまま俺はやがてくるであろうトロンとした幸福感を想像しながら車を走らせて帰途に着く。
そうなのだ。 何も変わらない。
人は順応していく、何かを代わりにして。
世界は様々な価値観で溢れているのだ。
だから俺の価値観もまた様々な一つだ。
この国で生きるにはまとも過ぎる俺は奴隷に成り下がることにいまだ抵抗をし続けている。
たとえそれが破滅に向かおうとも。
腐ったまま死んでいくより、やはりはるかに、間違い無くマシだ。
『legal smoke』 中田祐三 @syousetugaki123456
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