第12話
都内には月に一回だけ行く。
電車代やその他を考えると俺の安月給だけではそれが精一杯なのだ。
ハーブで億劫になった身体を無理やり動かして電車に乗りこむとラッキーなことに座ることが出来た。
これは本当に嬉しい。
ハーブをやって身体を動かすことはお勧めできない。
力が入らないというのもそうだが、やはり椅子に座って目を瞑り、音に身を任せていることに向いている。
それはミュージックでなくても音であるというだけで良いのだ。
つけていたイヤホンをはずし、瞳を閉じる。
すると電車内の会話や規則正しい電車の走る音がまるで極上のオーケストラに思えるのだ。
その中で壁に頭を預けながら目的地に着くのをゆったりと待つ。
幸いなことに俺の住む地域は乗り換えなしで目的地につくので余計なことを考えなくていい。
ただただ流れに身を任せるように到着するのを待っていることが楽しいと思えさせてくれるハーブはやはり素晴らしいな。
やがて目的の液の数駅前までたどり着いた。
ハーブの効能は大分薄れて、身体に力が入ってくる。
よかった、このまま効いている状態で階段を下りるのは少し危なっかしい。
前に一度だけ足を踏み外して階段から転げ落ちたことがある。
その時には幸いに大怪我はしなかったが、しばらくの間、強く打った肩が疼いたものだ。
晴れ始めた思考の中で携帯を取りだしてサイトを取り出す。
検索画面で『合法ハーブ 東京』と打つと数秒のタイムラグの後に沢山のサイトが表示された。
俺はその中で一つを選択して開く。
今日はこの店に行くとしよう。
合法ハーブの店は日に日に増えていく。
その中でも一部の店ではオリジナル商品をそろえるところもチラホラと出てきていた。
今日向かうところはその中の一つ。
ちょうど前に言った店から少し離れてはいるが大きな公園の近くにあるのでわかりやすい。
その店のサイトに表示されたオリジナル商品を買いに行くのだ。
そのついでにいつもの店でも購入する。
商品は『ラッシュトリップ』。
前に『間違って吸ってしまった』ときに一番良く酔えた商品だ。
件の店はあくまでそのついで。 情報収集もかねて知ってる店は増やしておかないと……。
店の場所を確認したところでちょうど目的の駅に着いた。
ヨイショと立ち上がりプラットフォームへと降りる。 ハーブは大分切れてきたようだ。
好都合だな。 新しい商品を試すにはシラフであることが第一条件。
より良い商品を、店を見つけることは賢い消費者にとっては必須なのだから。
降りた先の屋根から見える太陽は俺の街と同じ。
まるで追いかけられているかのように同じ空の下で輝いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます