第15話

良いものを見つけてしまった時、人間はどういう行動をとるだろうか?


ただ自分だけの秘密にして孤高に楽しむ?


それも良いだろう。 俺ももしかしたら少し前まではそうやって世界の一部の人間しか知らない最高の幸福に酔いしていただろうから。


だが今はそうじゃない。


共に青春時代を過ごした男。 


秘密を共有している親友。  


そして同じ趣味を持った同志が俺には今居るのだ。


「ちゃんと夕飯は抜いてきたか?」


週末、俺の家にやってきた染谷に俺はたずねた。


「もちろんだ、今日は最高の日になるんだろ?」


染谷の言葉に『フフン』と得意げに応える。


 もちろん肯定という意味で。


染谷は待ちきれない様子で数日前に俺が新たに購入したリキッドを覗き込んでいる。


テーブルの上に並べられた四本のガラス瓶がトロリと水面を揺らす。


あらかじめ染谷には夕食を抜いておくことを言っておいた。


リキッドは胃の中に流し込まなければならないので腹の中に何か入ってると効果が弱まってしまうのだ。


「腹ペコじゃないと楽しめない可能性があるからな」


リキッド自体の味の悪さによって吐き気がこみ上げることも考えられるので、それこそが最高の一時を楽しむためには必要不可欠な儀式であることも説明しておいた。


久しく見ることの無かったわずか数時間先の未来を予想して染谷は子供の頃のようにワクワクとした顔を見せている。


それを見れただけで、リキッドを買ってきた甲斐があるというもんだ。


かく言う俺も数回体験しても尚、その素晴らしさの底に辿り着けていない。


いったい気の置けない人間とどんなに楽しめるのだろう?


新たなる体験に顔がにやけるのを耐えられない。


「さあ、一緒に間違って飲もうじゃないか」


まるで役者のような口上でパーティの始まりを宣言した。


染谷も同じように、まるで十代の頃に戻ったように、


「お~!イエ~!」


ややダサい表現で全身全霊で表現してくれた。


さあ楽しくて幸せでちょっとだけ罪悪感を抱かせる宴の始まりだ!






「…俺が思うにだな人間ってのは真面目すぎてはいけないと思うんだ。確かに美点ではあるだろうけど、無理して我慢して一体何になるっていうんだ?俺達の周りには世間の奴らが言うほどには良いことなんかないじゃないか」


「ああそうだよ、そうだよな。最近はすっかりインポ気味でAVだってみなくなったよ、本当に凄い物ってのは中々無いよな」


お互いに熱弁しているというのに全く噛み合わない、愚痴にも独り言にも似た演説を交わしている。


そのチグハグな『青年の主張』を俺たちは一昼夜つづけていた。


時には俺と染谷の友情を人生唯一の宝にしようと熱く抱擁したりもしたがこれは忘れよう。


なぜならそのあとに親愛のハグとキスをした記憶があるから。

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