第25話

最近はテレビをつければハーブのニュースがよく流れるようになった。


それは一日どころか朝のニュースでも夜のニュースでも毎日どこかしらの地方でのハーブ販売店がモザイクで映し出され、その弊害の一つを声高に放映している。


コメンテーターの一人がうそ臭い深刻そうな顔で「問題だ」といえばいうほどに俺は鼻白んでいく。


こいつらはわかっているのだろうか?


なぜ沢山の人々が、それも主婦、学生、会社員の区別無く様々な人間がハーブを買っていくこの状況を。


それこそがこの国の病巣を照らしていることを。


誰もがこの国の在り方に疲弊し、酒に逃げることも出来ないで彼らの言うところの『ドラッグ』を求めているのだ。


だがそれを言ったところで愚か者の戯言としかとられないだろう。


ゆえに俺は沈黙する。 


そしてさすがの俺でも最悪の未来を嫌でも確実視するようになった。


ハーブはもう終わりなのだと。


そう思えるほどにハーブの質は異質で違うものへと変化していった。


やればやるほどに心を人間性を壊していく感覚を頭のどこか冷静な部分で俺自身がそう確信してしまったのだ。


だが諦めきれない。 


諦めることが出来ない。 


諦めてしまえば俺はどうやってこの社会で折り合いをつけて生きていけるのだろう?


だからこそ諦観にも似た執着で俺は様々なハーブを試しつづけることを辞められないでいた。


その時分には染谷との親交は途切れつつあり、俺からのメールも電話も返さず、たまに話せば言外にこちらへの哀れみと侮蔑がチラホラと見え隠れするようになった。


お前だって楽しんでいたじゃないか。


怒りと悲しみとともに吐き出したかった言葉を飲み込んで、あえて他の話題を出すが、かつてのハーブほどには盛り上がることは無い。


飲めば飲むほどに渇く塩水のような会話を繰り返すことにお互いに疲れ果てた。


もう連絡はすることは無いだろう。


最後のわずか十分ほどの通話での切りぎわにそう確信した。


孤独になったことには何の感慨も無い。 


いずれは来ることはわかりきっていた。


きっと染谷の方が正しいだろう。


もはやドップリとそれ以外に楽しみの無い俺の方が諦めが悪いのだ。


まるで中毒者のようにハーブを求める姿はあいつにはどう見えていたのだろう?


それも今となってはどうでもいい。 


もはやあいつと俺は道を隔ててしまったのだから。


そして俺はハーブにすがり続けている。


これでやめよう。 これが最後だ。 諦めよう。


思いながら購入したハーブに当たり前のように裏切られて、ヘドを吐きながら、


こんどこそ。 今度こそは…と別の店でハーブを求める。


だがそうしているうちに販売店は姿を消していく。


まるで首を真綿で絞められるように一つまた一つと供給場所を失いつつも休日の度に遠くまでそれを買いに行く。


だがその日々もとうとう終わりを告げる日が来た。


まるで性質の悪い男に貢いでいた女がある日、突然目覚めるように…いや当然とも言えるきっかけによって。

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