第10話
国道は土曜の夜だとはいえ午前3時ともなれば走る車はまだらだ。
スカスカとした灰色の道の上、開けた窓からは紫色の煙が立ち昇る。
「おい!あまりやるなよ!俺の分まで無くなるだろ」
運転しながら横に居る『酔いどれ男』に声をかけると、
「ケチケチするなって…まだまだいっぱいあるんだからさ」
やや上ずった声とノリの良いテクノでリズムを刻みながら袋の中味をこちらに見せる。
レゲエパンチ。 アゲハ。 ブラフマー等々。
数々の『ハーブ』達が開封されるのを待ちかねている。
いま染谷が試しているのはラッシュトリップ。
先程のショップで店員が一番売れていると言っていた品物だ。
クッキークリームのような香りが車内に充満し、芳香剤の匂いすらかき消している。
もう我慢が出来ない。 ボンヤリと窓に頭を傾けている同行者の手を叩いて、その後にその手を口元に向ける。
それだけで察してくれた染谷がそっと吸いかけのタバコを俺の口に運んでくれる。
よかった。 そこまでぶっ飛んでいるわけではないようだ。
ただ視界の隅でゆらゆらと揺れているライターの火が少し危なっかしいが、それでも何度かの失敗のあとにやっとタバコに火がついた。
軽く一吸いし、染谷に返す。
運転席側の窓をあけて煙を吐き捨てると、置いてけぼりを食らうようにそれは車外へと飛び出していく。
「気分はどうだ~?」
薄ぼんやりとした口調の染谷に俺は前を見据えながら、
「やっぱりハーブは最高だな」
ニカリと笑い返した。
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