私の理想の相手はネトゲの中にいる


 「あーーもうイライラする!」

 私は学校から帰って部屋に駆け込み布団に鞄を投げつけた。


「どんだけ私の事嫌ってるの、顔見るなり怪訝な表情して」


 第一印象は凄く良かった、ストーカーにあって男嫌いになっていた……、兄と言われた彼は女の子の様な顔立ち、優しそうな人だった。


 でも、つい……女みたいって言ってしまった、そうしたら……


「メガネブスってしょうがないじゃない目が悪いんだから!」


 物凄く悪いので度がキツく分厚いレンズのメガネ、コンタクトにしたらと言われ買ったけど、目に物を入れるという事が怖くて出来なかった……何度やっても目を瞑ってしまう。


「私だって掛けたくて掛けてる訳じゃないのに!本当嫌いあんな奴」


 そう言いながらパソコンの電源を入れる。

 カリカリとハードディスクの音がなりパソコンが立ち上がる。


「SSD欲しいな~~」

 立ち上がるのにイライラする、あの人がいるかもしれないと思うとこの数分が待ち遠しい。

「でもグラボ増設したばっかりでお金ないし……」


 最近空を飛んだりすると画面がカクカクする、そんなときのチャットのラグが嫌だった、彼とのお喋りは私の生き甲斐、心のオアシス、嫌なことも全部忘れられる。


 パソコンが立ち上がると、少し待ってゲームを立ち上げる、こうした方がかえって早く立ち上がる、2年の経験がそうさせる。


 ゲームが立ち上がった、オープニング画面なんて良いから早く! 真っ先に見るのは友達の欄、誰がインしているか分かる。


「いた!」

 ルナツーが彼のキャラ名、言いにくいからルナって呼んでいる。


 ルナがインしているのを確認するといつもの場所に向かう。


 町外れの木の下にルナは居た。


「離席中か」

  私はルナのキャラの前で待つ、ハートマークのモーションを出して彼のキャラ、ルナの前に座る。


 ルナとゲームで知り合って2年、ストーカーにあってあまり外に出なくなった私は暇潰しにオンラインゲームをやってみた、わけもわからずにインストール、そしてキャラを作った、自分の名前が天音あまねなので、リンというキャラ名にした。


 なんか天の音って鈴の音って気がしない?


 ただキャラの操作がわからずに右往左往していたらルナとぶつかった、それから一緒にゲームをしている。

 ルナは学生との事、知っている事はそれだけ……

 でもルナの趣味や人となりは全部知っている、凄く優しく凄く誠実。


 私は一気に嵌まった、ゲームにもルナにも……

 それから2年、最近は、ほぼ毎日ルナと会話をしている、全然飽きない、それどころかもう生き甲斐に近い……


 そんな事を考えつつ画面を見ていると、ルナのキャラの頭上から離席中のマークが消える。

「きた!」


『リン~~こん~~ごめん、今離席してた』

 チャットでルナが話しかけてくる、私もそれにすぐに返信する。


『ルナ~~こん~~、私も今インしたところ~~昨日ぶり~~会いたかったよ~~』

 会いたかった、毎日毎晩会いたい、ずっと話していたい。


『うん僕も~~』

 そう返信が来る、嬉しい、泣きたくなるほど嬉しい……

 ルナの一言一言が心にしみる、気持ちが楽に楽しくなる、ストーカーにあって以来男の人が怖い……でもルナと話しているとそんな気持ちが忘れられる。



『リン、今日はどうする?』

 ルナが言ってくる、このゲーム基本はモンスターを倒しアイテムやお金をゲット、経験値や装備を上げていく普通のゲーム、ミニゲームや装備品の製作なんかも出来るのでモンスターを倒さなくても遊べる、でも私は景色を見たりしている方が好き、そして一番好きなのは勿論ルナとのチャット


『今日は光の島に行きたいの』

 私は即答する、今日何をするかは事前に決めていた、ルナと景色のいい場所に行ってお喋りをする、そして……



 ルナはドラゴンを召喚、二人でお金を出しあって育てた私たちの子供?共同作業?、ふふふ!


 レベル上げに苦労したけど最近乗れるようになり、空の散歩を楽しめる、でもそのお陰でグラボの増設という出費が……


 竜の上で空を飛びながらの空中散歩、現実では絶対に出来ないデートに心が踊る。


 段々見えてくる光の島、少しだけ緊張する……ルナは覚えていてくれているんだろうか……


 島に到着、事前に調べていた島の真ん中にある山の頂上に向かって歩く


 水晶で出来た木のトンネル、キラキラ輝いて私たちを照らす。


 それほどかからずに到着


『わーーーー、島全体が光ってる』

 凄く綺麗なグラフィック、現実では見れない世界、そこにルナと二人でいる事の喜び


 しばらく二人でその景色を見ていた。

 そして少し緊張しながらキーボードを叩く……


『あのね、今日で2年たつんだよ、覚えてる?』

 去年1年たったのを知り、その日を二人の記念日にしようと言った。

 そんな事を覚えていてくれるんだろうか、私の独りよがりなのか少し緊張した……すると


『もちろん覚えてる、記念日にしようって去年言ったもんね』

 そう言ってくれる、覚えていてくれた、嬉しくて泣きそうになる。



『リン1年間ありがとう、そして来年もよろしく』

 ルナがそう言ってくれた、そしてさらに取引のランプが光る、認証ボタンを押すと指輪がアイテム欄に入ってくる。


 記念日様にアイテムの用意までしてくれていた、もう堪えきれずに泣いてしまう。

 泣きながらブラインドでキーボードを叩く、ルナとの会話をスムーズにしたくて練習した甲斐があった。


 私はメガネを贈る、なんて事はないアイテム、相手の顔をアップで見れるだけ……

 でも見てほしかった、私の顔、なるだけ似せて作った顔をメガネを取った私の顔……



『リン可愛い』


 ルナは可愛いって言ってくれた、私の本当の姿に言ってくれている様に思った。


 私はルナに恋をしているのにこの時気がついた。


 ネトゲの中に私の好きな人がいる、でもそれは誰だかわからない……男か女かそれさえも……


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