会いたい理由
「えっと……どうやって入るの……」
家の前で僕は呆然と立ち尽くす……だって、父さんと義母さんがいるんじゃ?
朝は起きる前に出られたけど、今は昼過ぎ……この格好で帰ったら見つかるかも……
でも、父さんは土曜日も出勤する事が多いし、義母さんは買い物に行くことも……一瞬天音に電話をと思ったけどさっきの事が頭を過る、かといってこのまま家の前で立ち尽くす訳には行かない
「えーーい、ままよ!」
僕は思い切って家の扉を開けた…………!!!
「!!!!」
えっと……義母さんが買い物に行こうと扉を開ける寸前でした……終わった……
一瞬の静寂……僕と義母さんはそのまま固まる、そして先に動いたのは義母さん
僕の手を掴むとそのままリビングに連れて行かれる……
ああ、多分リビングに父さんがいるんだろう、天音の制服を勝手に来たとか、そんな感じか……それは誤解なんで話せば分かってくれるかも、いやでもそれ以前に化粧までしてるし、こんな顔だし、やっぱりとか思われて……とにかく家族会議なんだろうな……
でも……僕は天音との件で今落ち込んでおり、なんかもう……どうでもいいや……って言う気になっていた。
リビングに入る、父さんはいない、でもここで義母さんが口を開く。
「そこにすわってて」
僕をソファーに座るように指示し、部屋を出ていく……そうか父さんを呼びに行くのか……
僕は無我の境地でソファーに座り、まな板の鯉の状態になっていた。
「なんか……もう……いいや……」
天音にされたとか、天音の為にとか……言い訳っぽいもんな……実際はそうなんだけど、結局着たのは自分だし……決めたのは自分だし……
5分も経たずに部屋の扉が開き義母さんが入ってきて、そして扉を閉める……
え?父さんは?
そして義母さんは部屋に入るなり、僕に向かって言った。
「と、朋君……可愛い、朋君……超かわいいいいいい、お願い、お願いだからこれ着て」
手には着物が……へ?
「お願い朋君、天音は嫌がるの、朋君ならぴったり、胸とかないし、くびれもないし、細いけど凄く着付けしやすいと思ってたの、前から着物の理想体型だなって、ほらこれなんて色も朋君にぴったり、ね、ね?」
「え、えええええええええええ」
「とりあえず、ちょっと動かないで」
そういうとソファーに腰かける僕に着物を被せる。
「いやああああん、超かわいいいいいいい」
更に帯を乗せる……
「きゃああああああ、ぴったりいいい、ほらこれ、かんざしとか櫛とかもあるし、ね、ちょっと、ちょっとだけ着てくれない?」
「えっと……今は……」
何が何やら分からない……でもそう言えば言っていたな、着物道楽って、て言うかこれは……通り越して……着物バカ?
「えええええええ」
本気で泣きそうな顔になり残念がる義母さん、えっと僕の今の格好を見てなんとも思わないの?
「えっと、今日はちょっと……でもじゃあ……また今度に……」
「本当? 本当に? 絶対よ! 約束よ!!」
「あ、はい……」
「わーーーーい、やった~~~~」
スキップしながらリビングを出ていく義母さん……前から思ってたけど天音と俺の状態を1年間ほっとくとか、この格好を何とも思わないとか……あの空気読めない感……なるほど天音の母親だわ。
「はあ」
義母さんが出ていった後暫く呆然としていた、そしてホッとしたのか、なんなのか、僕はため息をつくと、リビングを後にし部屋に戻った、天音は帰ってるんだろうか、靴はさっきの騒動で見てなかった、かといって天音の部屋に行く勇気はない……
部屋に戻り部屋着に着替え、天音の制服をハンガーにかけ椅子に座って暫く眺めながら考えていた。
「僕はなんであんな事を言ってしまったんだろう……」
仮に天音がリンの悪口を言ったら、僕だって怒る、好きな人をバカにされて怒らない訳がない……
それが分かってて、なんであんな事を言ってしまったんだ?
天音が心配だから……確かに心配だ、僕と一緒にトイレに入ろうとする感覚、平気で腕を組む、ついこの間まで他人以下だったのにこの変わり様……しかも天音って眼鏡を外すと可愛いし、こないだまでガリガリに痩せて、頬が痩けて、しかも暗くてうつ向いてばかり、それを僕があそこまでやったんだ、それを美味しい所だけ横取りするなんて……って僕何を考えてるんだ、天音は物じゃない……しかも僕はそれを分かっててやってたんじゃないのか?
自己嫌悪……
僕って小さいな……
「多分いないけど……」
落ち込んだとき、いつも僕にはリンがいた……リンと会うと心が安らぐ、楽しい会話が僕を癒す、昨日1日会えないだけで結構来るものがある……今日はこれからインしてずっとリンを待とう……そう思いPCを起動する。
「え?」
インをするなり声を上げた、リンがインしている!
僕はいつもの場所に走っていく、いつもの木の下でリンが座っていた、
「リン!」
「ルナ!!」
「リン、今日は早いね、まさかいるとは」
「るなあああああ、るなあああああ」
リンは泣きながら、泣くモーションをしながら僕を呼ぶ
「ど、どうしたの? 大丈夫? 何かあった?」
「るなああああああああああ」
「どうしたの? リン、リン!! 何があったの?」
リンが泣いている、どうしたのか! 僕はいてもたってもいられなくなった。
「るなああああああ、ルナって私の身体目当てに会いたいって思ったの?」
「ええええええええええええ?」
「そう言われたの、ルナが私の身体目当ての変態って」
「えええええええれええ!! 何だそいつふざけるな~~」
「うん、ルナそんな人じゃないって私が一番わかってる、でも、じゃあルナが私に会いたい理由って、何だろうって」
「僕がリンに会いたい理由」
え? 改めて聞かれると、え? リンに会いたい理由
「それを考えたら、私はどうなんだろうって考えたの、ルナに会いたい理由」
「僕に会いたい理由」
「ルナが好き大好き、だから、ルナを見たい、ルナに触れたい、ルナとキスがしたい……ルナと、それって身体目当てじゃないのかって、変態は私じゃないのかって」
「リン」
「ルナはどうなの? 私と会いたい理由って何?」
リンに会いたい、それは間違いない僕の気持ち、……僕は今思ってる事をそのまま打ち込んだ。
「僕はリンの事が知りたい、もっともっと知りたい、好きだから、もっともっと好きになりたいから、声も知りたい、顔も知りたい、髪も手も足も身体も全部知りたい、今知ってるのは、リンの心だけだから、リンがどんな人なのか知りたいんだ、そしてもっともっと好きになりたいんだ、心以外、全部好きになりたいんだ」
「ルナ」
「たとえどんな人でもリンなら好きになれる、絶対にもっと今よりもっと大好きになれる」
そしてリンに会えばこのモヤモヤした気持ち、天音に抱いている感情、リンに会えば吹っ切れると思う、リンに触れられれば、絶対に吹っ切れる自信がある。
「リンに会いたい、会ってもっともっと好きになりたい」
「ルナ、ルナ、ルナ、るなああああああああああああああ」
「リン」
リンは泣いていた、そして僕はリンの泣いているキャラクターをじっと見つめていた、何故か分からないが今日の天音の最後の表情と重なる、何故か分からないけど……
暫くしてリンのキャラが泣き止む、と同時にキャラが僕に向かいチャットに文字が。
「ルナ、私と週明け、木曜日夏休み初日に駅で、阿佐ヶ谷駅の南口、10時に会ってください」
「リン!」
「10時に南口にいます、私を見つけてルナ」
「え?」
「新宿とか渋谷じゃないからわかるよ、ううん、分かって欲しい」
「うん、わかった、見つける、絶対に見つける」
「待ってるね、ルナ」
ついに、ついに僕とリンが出会う日が……決まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます