もう大丈夫だから
日曜日は結局天音と顔を合わせなかった、前に戻ったかの如く、お互いがお互いを避ける様に1日過ごしてしまった。
そして月曜日、僕はこれじゃ駄目だと思い、ここ最近のように天音の朝食を作る。
僕が朝食を作ってるのが、わかったのか制服姿の天音がキッチンに入ってくる。
「おはよ……」
食卓の前で俯いたまま小さな声で挨拶をしてくれる天音、僕は少しホッとした、前の様に挨拶もしないでそのまま学校に行ってしまうと思っていたから。
「おはよ、えっと……一昨日はごめん」
「ううん……」
軽く首を振ると天音は椅子に座り僕の用意したご飯をモソモソと食べ始める。
僕も座って一緒に食べるけど……気まずい……これって許してくれてないんだろうな……
「あの、天音、味はどう?」
「おいしい……」
「よかった……」
「…………………………」
一昨日の楽しかったデートが嘘の様なこの気まずさ、でも悪いのは僕……だから
「えっと、天音今日帰ったら」
僕がそう言いかけると天音が箸を置き姿勢を整え、僕を真っ直ぐに見てこう言った。
「お兄さん……、大丈夫、私……もう……大丈夫だから……ありがとう……」
「え? それって……」
「うん…………もう……大丈夫……」
「そ、そう……」
大丈夫って……それってもう、僕が協力しなくてもいいって事なのか……、いやそんな感じじゃない、これってもう……私に構うなって事……完全な拒絶……
「ご馳走さま……いってきます」
「あ、うん」
天音は食器を持ってキッチンに行きシンクに入れカバンを持って出ていく……その間……一度も僕の顔を見ずに……
僕は天音が出ていくのを何も言わずに見つめていた、いや何も言えなかった……なぜなら言葉が出なかったから、胸が痛くて声が出なかった……
そして、今、天音の言葉で、そしてこの胸の痛みで、僕はこれが何か今になってようやくわかった……これって……
失恋…………
失恋……そう思った瞬間に全部理解した、そうだ、そうだったんだ、僕はいつの間にか天音に恋をしていたんだ、天音が好きになっていたんだ、今になって気がついた、ようやく気がついた……いつからだろう? 昨日から? ご飯を一緒に食べ始めた時? いや、ひょっとしたら……初めて会ったときから……
でも……そんな事はもう、どうでもいい、もう終わったんだ……恋と気づく前に、何も始まらないうちに……僕と天音は兄妹、最初からただの兄妹……、そう思えばいい、そう……兄妹で付き合うなんて……そんなの有り得ないんだから……でも
そう思った途端に僕は更に落ち込んだ、心が、胸が痛んだ……
そうだ、僕はリンが好き、いや今になってはこう言った方がいい……リンも好き……こう言い換えれば自分でも分かる、それって最低だ、僕はリンと天音を両方好きになっていたって事だ。
最低だ最低だ最低だ、僕は…………最低な奴だ!!!
リンは僕の事を誠実だと言ってくれた、どこが? 僕のどこが誠実なんだ? 僕は天音の期待を裏切り、そしてリンの心も裏切った……こんな最低な奴……リンはどう思う……僕は天音もリンも裏切った。
リンと天音を同時に好きになるなんて、何でだ、何でなんだ?
リン……ごめん……天音……ごめん、僕は最低だ、二人の期待を、二人の心を裏切った最低な人間だ
「僕は天音と一緒にいる資格も、リンと会う資格も……両方ないんじゃないか?」
木曜日……僕はどうすれば……いいんだ……
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