嫉妬


 「え? それは女子、あ、でも駄目だよね、じゃあ男子に」


「こ、この格好で?」


「ああ、うん駄目か……えっと、じゃあ私が一緒に行って監視するとかは? 他の人を見ないようにとか」


「監視って、何処で?」


「えっと、個室から他を覗かないように一緒に入って終わるまで監視すれば、もしなんかあっても私が証人として見てないって言ってあげる」


「えっと……僕がその……終わるまで一緒にいるって事?」


「うん、ちゃんと覗かないように見てないと、証人になれないでしょ?」

 天音は天然なの? 何を言ってるんだよ~一緒にトイレに入ってその……するって事の意味が分かってるの?


「で、で、出来る分けないでしょ、そんな事! うわわわ漏れ……」


「え、えっと、じゃあ目を摘むって、あ、そうしたら監視できない、えっとえっと、大事な所は見ないようにするとか」



「なんだよ~それ、あ、駄目だもうこのまま男子の方に」

 僕はフラフラとトイレに向かう


「だ、駄目だよ、そんな格好で入ったら朋ちゃん襲われちゃう」


 まじでリアルにそれ何てエロゲだけど、さすがに女子トイレはまずい


「でも、と、とりあえずトイレに……」


 二人でトイレに向かうって本当になんなんだよこれ……女装してる人達ってどうしてるの……普通に入っちゃってるのかな?


「あ! 朋ちゃん、あれは?」


 天音が指差した方を見る……あ


「多目的トイレか、でもいいの入って」


「そんな事いってる場合?」


「だって……」


「あ、ほらどなたでもご利用出来ますって」


「あ、ほんとだ、じゃあ」


「朋ちゃん一緒に入らなくていい?」


「何でだよ!」

 もう天音の感覚が分かんない、っていうか大丈夫? なんか心配になってきた……


 ようやくトイレにも行けて落ち着く……でも初めてスカート履いてトイレに入った……なんか……もう、僕駄目かも……そもそもスカートを履いたままトイレってどうやるのか分からない……自分で捲って脱いで……ああ、思い出すだけで……もう駄目……ぽ


 少し凹みながらも駅の方に向かって天音と歩く、天音はまた僕の腕に絡みつけるように腕を組む、僕もなんだか慣れた。


「それで買い物って何を買うの?」


「えっとね~~水着とね~~下着~~」


「下着…………それって僕も行くの?」


「うん、一緒に朋ちゃんのも選ぼう」


「いや、だから僕男だから、一緒に入ったら不味くない?」


「トイレと違ってそんな決まりはないから大丈夫よ~」

 いやそういう問題じゃない気がする……


「少し太って来たけど、前ほどじゃないからサイズが合わなくて、それに……もうすぐ彼に会うし……ちゃんとしたもの着けておかないと、いざって時に……」

 


 頬をポッと赤らめる天音…………え、彼にって……そう……だよな……天音には好きな人がいるんだ、好きな人の為に今こうしている……


「やっぱり、それなりに……準備をしないと……ね」


「だ、駄目だよ!!」


「え?」


「だ、駄目だよ」


「なに? 朋ちゃん急に」


「えっと、中学生が……そんなの、駄目だって」

 そうだ、天音はまだ中学生で、僕の妹で……確か相手大学生とかって言ってたよな、何だよそいつ、中学生に手を出すとか変態じゃないか!


「えっと、でも……付き合うってそういう事も……」


「そうだけど、でも……早いよ……そんなの」


「でも……朋ちゃんも好きな人がいるっていってたよね、もしその人と付き合う事になったらそういう事はしない?」


「いや、でも……男と女では違うって言うか」


「一緒だよ! そんなの一緒じゃない?」


「でも……そんな中学生に手を出す大学生なんて……そんな奴………キモいし変態じゃないか!!……」

 あ、僕……勢い余ってつい言っちゃった……



「ひ、酷い……私の……私の好きな人……大切な人を……」


「あ、ごめん……」


「そんな風に思ってたんだ…………もう……いい…………今日は帰る……」


「天音……」

 ちょうど駅の前で言い争い、制服姿の女子が言い争っている姿に周囲がチラチラこっちをみていた。


「今日はありがとう……と…………兄さん……でも、もういい……別々に帰ろう」

 天音はうつ向きながらそう言うと僕と目を合わさずにそのまま1人改札の方に歩いていく……僕はそんな天音の後ろ姿を呆然と眺めていた。


 つい言ってしまった……天音の大切な人って分かってたのに……でも……言わずにはいられなかった、だって今日だって僕とトイレに一緒に入ろうとするし、天音は全く人を信じないけど、一旦心を許すと、そういう事に無頓着になる……兄妹の僕でこれだ、ましてや相手は…………天音が傷付くかも知れない、もうこれ以上天音には傷付いて欲しくない……だけ……

 


 いや…………そうじゃない…………ひょっとしたら僕は…………天音の事を……


 ボートでの天音の笑顔が僕の脳裏に浮かぶ、その時僕は激しい胸の痛みを感じた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る