僕の理想の相手はネトゲの中にいる


 家に帰るとまずは部屋に入りPCの電源を入れゲームを起動する。

 そして彼女がインしているか確認するそこまでがいつものルーティンワーク


 彼女が居ればそのままおしゃべりや、一緒にゲームをする、居なければ離席中と表示してコーヒーを入れに行ったり、本を読んだり、宿題をしたりしている。


 そう、僕はネトゲプレイヤーではあるが、ガチ勢ではない。

 適当に楽しむだけで良かった、そしてここ『MMORPGアートオブドラゴニア』は僕みたいな緩いゲーマーでも楽しめる環境なのだ。


 僕はとりあえず部屋を出て台所に向かう、コーヒーでも入れて彼女が来るのを待つためだ。


 台所に行く途中の玄関を通ると、丁度義妹が帰ってきた……


「ただい…………ちっ」


 僕を見るなり怪訝な表情を浮かべた彼女は、足早に部屋に向かって行った……


 僕と妹は仲が悪い……去年親が再婚した、そこで突然妹と言われて、はいそうですかとお互い受け入れられなかった……


「なよなよしてる……おんなみたい……」

「メガネブス……」


 会った瞬間お互いの第一印象をポロっと言ってしまい、それ以降険悪になる……


 だって分厚いメガネで暗そうな奴に初対面でおんなみたいって……、僕の一番気にしている事を言いやがった……


「くっそう、思い出したらムカムカしてきた」

 僕はコーヒーを入れ部屋に戻りゲームの画面を覗くと友達の所にインのマーク、そして僕のキャラの前でハートマークを一杯にして座っている可愛いキャラがいた!!!


 今のムカムカが一瞬で吹き飛ぶ!

 慌ててコーヒーをこぼしそうになりながら席に着きキーボードを叩く


『リン~~こん~~ごめん、今離席してた』


『ルナ~~こん~~、私も今インしたところ~~昨日ぶり~~会いたかったよ~~』


『うん僕も~~』


 そう……キャラ名リン、彼女が僕の理想の人……知り合ってからそろそろ2年になる。


 インの時間を考えると恐らく学生だろう、但し男女か?、どこに済んでるのか、一切分からない


 なんでもストーカーにあったらしく絶対に言わない、そして僕もその話しをされてから聞かない様にしている。


 ストーカーに会うんだから女の子だよね?多分……


 彼女とは毎日話している、彼女はあまりプライベートの話しはしないけど、テレビの話し、ゲームの話し、音楽の話し、ファッションの話し、そしてオタ話し、そんなたわいもない話しをとりとめなもなくしてくれる。


 僕は学生と言っているので、学校の悩みを少し言ったりしている。

 そして彼女はそれを一緒に悩み相談に乗ってくれる。


 ゲームの中だけど、彼女は凄く優しく、思いやりがあって、誠実だった。

 僕に告白してくる娘は僕の容姿だけしか見てない、僕を見てくれない……


 僕は外見なんてどうでもいい、中身が大事と思っている、そして僕の中身を好きになって貰いたい……



 そして僕は顔も容姿も年齢も性別さえ知らないリンに恋をしていた。



『リン、今日はどうする?』

『今日は光の島に行きたいの』


『光の島?ってこのあいだアプデされた所だよね』

 最近アップデートされた場所、それほど強い敵とかは出現しないがとにかく美しい、光が溢れている島、島の頂上から見える景色が凄く良いらしい。


『うん、そこにルナと行きたいの』


『じゃあ行こう』

 僕はドラゴンを召喚する、ガチ勢ではない僕と彼女が少しずつゴールドを貯めドラゴンの卵を買い1年かけて育て最近ようやく乗れるようになった。


 このゲームはガチ勢じゃなくても楽しめる。

 そのうちの一つが景色

 異世界に居るような雰囲気を醸し出すこの景色

 好きな人と一緒に旅行気分になれるなんて、凄くいいと思わない?


『見てえイルカの群れが見える~~~』


 彼女も楽しそうだった、暫し空中散歩を楽しむと光に溢れる島が見えてくる。



 光の島、木々が全て水晶で出来ており、島全体が光輝く、島の真ん中にある山の麓に洞窟があり、ダンジョンの入り口になっていた。


 ここに降り立つ者はほぼそのダンジョ目当てなんだが、僕と彼女はそこへは行かずに山頂に歩いて行く。


『凄い……綺麗……』

 水晶のトンネル、光の乱舞……グラボのファンが唸りを上げる。


『凄いね』

 そんな景色を二人で歩き山の山頂にたどり着く


『わーーーー、島全体が光ってる』


『虹が見えるね』


 そこから見える景色を二人で座って暫し眺めていた。


『あのね、今日で2年たつんだよ、覚えてる?』

 リンがそう言った……もちろん覚えてる、始めてこのゲームで出会って遊んだ日の事を……


 僕とリンは始まりの町でキャラの動かせ方が分からず何度もぶつかる、その度にご免なさいとお互い謝っていた……そしてどうやったら上手く行くかその場でチャットをしながら協力仕合、二人で練習しあった。


 

 それからは特に決めては居なかったが、いつも同じような時間にログインしていた、その度に会って話しをする様になり、いつしかゲームで遊ぶより、彼女と話すのがメインになっていた。


『もちろん覚えてる、記念日にしようって去年言ったもんね』


『うん』


『リン1年間ありがとう、そして来年もよろしく』

 僕はリンに指輪のアイテムを贈る。


『用意してくれてたんだ~~ありがとう、私もこれを』

 リンは僕にメガネをくれた、メガネ?


『これキャラの顔がアップで見れるようになるアイテムなの、もっと私を見てほしくて』


『そうなんだ、ありがとう』

 僕はメガネを装備してリンのキャラの正面に立つ、アップで可愛いリンの顔が画面に映った。


『リン可愛い』


『ありがとう』


 結構自在にキャラが作れるこのゲーム、リンはポニーテールで小さい顔に綺麗な目、そしてこのアイテムでしか見えない小さな泣きボクロがあった。



 この泣きボクロの君が僕の理想の人、でも誰かはわからない……


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