連休の女

 律子はOL。


 今年のゴールデンウイークは、大型連休だ。


 四月二十九日から五月九日までずっと休みなのだ。


 ここまで長い休みは、年末年始にもお盆休みにも経験がない。


 どこに行こうかと計画を練る。


 ところが、悲しい事に年下の夫の休みはカレンダー通り。


 三十日は出勤で、六日からは通常業務。


「有給休暇取りなさいよ、私一人で休んでも楽しくないわ」


 膨れっ面の律子が抗議する。


「無理だよ。本当は休日出勤しなくちゃいけないくらいのを、有給使って休んだんだから。もうギリギリなの」


 夫も負けずに言い返す。


「うー」


 イライラが顔に出ている律子。どうにも納得がいかないようだ。


「ホントは、ヨーロッパ旅行にでも行きたかったのに!」


「友達と行けばいいだろ?」


 夫の提案にますます怒り出す律子。


「二人で出かけるのがいいの!」


 顔を赤らめて口を尖らせる。夫はクスッと笑い、


「気持ちは嬉しいんだけどさ、あまり会社に我が儘言うと、リストラ対象になっちゃうんだよ」


と、律子を黙らせるために嘘を吐いた。


「ええええ!? 会社、危ないの?」


 律子は真っ青になる。


「え、いや、そうじゃないんだけどさ」


「ホントの事言ってよ。危ないんなら、転職考えないとさ」


 律子は一人でドンドン進行してしまう。すっかり置いてきぼりの夫。


「いや、だからね」


 夫はもう、「ウソだよ」と言い出せないのを悟り、困っている。


「実家の両親にも相談してみようかしら?」


 走り出したら止まらないのが律子だ。


「あ、だから、そこまでしなくても、会社は危なくないから、安心して」


 何とかブレーキをかけようとする夫。


「じゃあどうしてリストラ対象にされるのよ? あ、もしかして、問題社員なの、あんた?」


 今度は違う方向へ暴走が始まる。


「そんな事ないよ。定年までいてくれって、言われているんだから」


「そうなの?」

 

 疑いの眼差しを向ける。さすがに温厚な夫もムッとしてしまう。


「何だよ、そんなに俺が信用できないのか?」


「そ、そういう訳じゃないんだけど」


 夫に強気に出られると、途端に弱気になる律子。いつものパターンだ。


「ごめんなさい」


 涙ぐんで謝る。今度は夫が驚く。


「おいおい、泣かなくてもいいだろ? そんな大袈裟に受け止めるなよ」


「うん」


 涙を拭い、ニコッとする。喜怒哀楽が瞬時に変わる女だ。面倒臭いと思う夫。


「わかった。寂しいけど、我慢する。どこにも行かないで、家で過ごすわ」


「そこまで我慢しなくてもいいよ。二人共休みの日は、どこかに出かけようよ」


「日本はどこも混雑してるから嫌なの」


 律子は際限のない我が儘人間である。


「だったら、韓国とか、台湾とか、短期で行けるところにしようよ」


「やーだ! ヨーロッパがいいの!」


 律子はゴロンと床に大の字に寝転がった。


「わかったよ。じゃ、ずっと家にいよう」


 夫が上から覗き込む。律子は口を尖らせたままで夫を見上げ、


「でも、買い物くらいは行きたいかな」


「そうだね」


 結局ラブラブな二人だった。

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