大学の女
僕の彼女は大学一の美人。
一緒に歩いていると、男共は全員振り返るし、女達は全員嫉妬交じりの目を向ける。
彼女は顔だけではなく、プロポーションも抜群で、まさしく「ボン、キュ、ボン!」である。
そこまで素敵な彼女を連れているなら、僕もイケメン、と言いたいところだが……。
僕にあの芸人ほどの厚かましさがあれば言えたかも知れない。
しかし、僕はそれほど恥知らずではない。
身の程を知っている。
となると、必然的に湧いて来るのが、ある疑問。
何故彼女は、僕みたいな男を選んだのか?
財産目当てではない。僕の家はごく普通だ。大金持ちではない。
もしかして、これは全部夢? そんな事はあり得ない。
もしそうなら、僕は昏睡状態だ。もう三ヶ月付き合っているのだから。
「どうしたの?」
彼女はまるで女神様のような微笑み(本物を見た訳ではないが)で僕を見る。
「あ、いや、何でもないよ」
僕達は今、講義が終わって席を立つところだった。
「何でもなくない。貴方、時々そうやって遠い目をして私の事を見てくれない事があるわ」
彼女はプウと頬を膨らませて言う。ああ、可愛い。可愛過ぎる。
「ご、ごめん」
僕は慌てて詫びた。そんな事で彼女を失いたくないからだ。
「そういうところが好き」
「え?」
いきなり何を言い出すのさ? 嬉しいけど。
「他の男は私と付き合い始めると、私を自分のモノだと思って、私の身体ばかり求めて来るの。貴方はそういう事がないから、それも好き」
「!」
ドキン! 心臓が破裂しそうなくらい高鳴っている。そ、それはね……。
それは、僕も一度は「拝観」したいよ、君の身体を。
でも、そんな事言い出せないし。
あれ? という事は、予防線張られた?
貴方には身体は許さないと?
ああ。じゃあ、僕って何なのさ? 友達じゃん。
別に彼女の身体だけが目的じゃないけどさ。
「フフフ」
彼女は笑い出した。
「え?」
僕は見抜かれたと思い、ギクッとした。
「わかり易いわ。ホントにわかり易くて、好き」
「え?」
僕は全然わからない。彼女は通路のベンチに腰掛けた。
「座って」
隣を手で示す彼女。僕は言われるがままに腰を下ろした。
次の講義に行く皆が、僕達を見て通り過ぎて行く。
「貴方、私がどうして貴方と付き合っているのか、疑問なんでしょ?」
見抜かれてる。そりゃそうか。
「今まで付き合って来た男達って、自分に自信満々で、本当にいけ好かない奴らばかりだったの」
「そうなんだ」
僕は自信なんてない。彼女はニコッとして僕を見た。
「自分がいい男だから、私と付き合う資格がある、私がいい女だから、自分と付き合う資格がある。そんな連中ばかりだったわ」
「うん」
僕は頷く事しかできない。
「もううんざりしたの。人と人の釣り合いって、見た目や頭の良さだけではないでしょ? だから、私はイケメンと付き合うのをやめたのよ」
「ああ、なるほど」
そこまで言って、彼女はハッとした。そして両手をパチンと合わせて、
「ごめーん! 今の話、貴方に凄く失礼よね」
「あ、いや、別にいいよ。僕はイケメンじゃないから」
僕は自虐的にではなく、本当にそう思って言った。
「そういうところが、本当に好きよ」
彼女は飛びっきりの笑顔で言った。僕は顔が火照るのを感じた。
「今日さ」
彼女が耳元で囁く。吐息が耳たぶに心地良い。クラクラしそうだ。
「私のアパートに来ない?」
死んでしまいそうだ。どういう意味? もしかして、試されてる?
「勘繰り過ぎよ。それと、期待し過ぎ。そういうところが好きなんだけどね」
彼女は陽気に笑った。僕も頭を掻いて笑った。
「そういうのって、その時の気分次第、でしょ?」
彼女のその言葉に、僕は倒れそうだった。
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