文化祭の女

 俺は高校二年。スポーツにも勉強にも燃えていないし、アイドルとかにも萌えていない帰宅部。


 そんな俺でも、密かに楽しみにしているイベントがある。


 文化祭。一年おきに開催される、我が校の行事だ。


 俺の学年は運が悪い学年で、二年の時しか開催されない。


 だから余計気になっている。


 我が校の文化祭は、近隣では有名だ。他校の生徒達もたくさん訪れる。


 もちろん、女子達も。


 そう。我が校は、男子校なのだ。だから普段は皆、女子と縁がない連中ばかりだ。


 特に俺のような帰宅部の多くは、女子に縁がないのは今に始まった訳ではない奴が多い。


 このイベントを機会にお近づきになれればと、下心丸出しの者もいる。


 いつもなら、終業のチャイムと同時に教室を出て行く連中が、文化祭に向けて燃えている(いや、萌えているのか?)さまは、クラスの他の奴らにはとても気持ち悪く見えた事だろう。


 誰よりも率先して、俺は企画を立ち上げた。


 女子の喜びそうな、そして興味を持ちそうな「占いの館」。


 帰宅部が結集して立ち上げたその企画は、大した反対もされる事なく、採用された。


 みんな、何だかんだ言って、女子と話がしたいのだ。


 素直じゃない。


 


 そして、文化祭当日。


 おおかたの予想に反して、俺達の占いの館は大盛況だった。


 しかし、それは俺達にとっては、あまり喜ばしくなかった。


 来るのは皆、カップルばかり。


 それどころか、同じクラスの連中まで、彼女を呼んで来たりした。


「何か、つまんね」


 幾人かの同志達が脱落して行く。やる気が失せ、テンションが下がってしまったのだ。


 あれほど賑わっていた「占いの館」も閑散としていて、気がつけば、そこにいるのは俺だけだった。


「冷たい連中だ」


 企画を立ち上げ、インターネットとかで占いについて調べていた時は、皆目を輝かせていたのに。


 俺は憤然として、椅子にふんぞり返った。そして目を瞑る。


「くそ」


 口を突いて出るのは、愚痴ばかりになりそうなので、俺は寝てしまおうと思った。


 ウツラウツラとし始めた時だった。


「あの」


 女の子の声がした。お客?


 俺はハッとして目を開けた。


「占ってほしいのですが?」


 そこには、まさにこれぞ俺の探していたプリンセスという感じの、清楚で可憐で純真そうな美少女が立っていた。


 制服はこの辺では見かけないものだ。制服マニアの俺が知らないのだから、間違いない。


「は、はい。どうぞ、おかけ下さい」


 俺は慌てて椅子を出した。


「ありがとうございます」


 その子はニコッとして椅子にフワッと座る。


 何て奇麗なんだ。俺はうっとりとして、彼女を見た。


「あの」


「は、はい」


 俺は我に返った。


「私、性格が暗くて、お友達もできなくて」


「そ、そんな風にはみえないけど」


「ですから、男の人とも、うまくお話できないんです」


 おお。俺と同じ。急に親近感が湧く。


「どうしたらお友達ができるのか、占って欲しいんです」


 何だか深刻な相談だ。参ったな。そういうマニュアルは用意してない。


「と、取り敢えず、生年月日と星座と干支とお名前をここに書いて下さい」


 こうなったら、全力を挙げてこの子に協力しよう。


 正しい知識は足りないけど、占いって、人生相談の一種だって書かれていたサイトがあったよな。


 だから、俺は彼女の相談に乗ってあげて、何か解決の糸口でも見つけるんだ。


 何だかわからないけど、幼い頃に見た大好きだった特撮番組の最終回の時より燃えて来た。


 この子の名前は、樋口晶子。根拠はないけど、文学少女っぽい。


 星座は、てんびん座? 俺と一緒じゃん!


 俺は占っているフリをし、言った。


「貴女は暗くなんてありませんよ。お友達もできます。男の人ともうまく話せます。自分で殻に閉じこもらないで、自分から行動すれば、必ずうまくいくます」


 俺はスラスラとそんな口から出まかせを言ってしまった。


 占いはインチキだけど、今の言葉は俺の本当の思いだ。


「本当ですか?」


 晶子さんは嬉しそうに俺に尋ねて来た。俺は大きく頷いて、


「本当です。間違いありません」


と胸を張って答えた。


「ありがとうございます。そうしてみます」


 晶子さんはそう言って立ち上がり、深々とお辞儀を知ると、教室を出て行った。


 俺はその一連の動きを只呆然として見ていた。




「おい、起きろよ」


「え?」


 俺はクラスメートに肩を揺すられて目を覚ました。


「あれ、いつの間に?」


 周囲を見回すと、すでに夕方。何時間眠ってしまったのだろう?


「いくら客がこないかっらって、爆睡するなよ」


「あ、ああ」


 俺は理由わけがわからず、混乱した。




 そして学校を出た俺は、家路を急いだ。


「そこの貴方」


 急に後ろから声をかけられ、俺はギクッとした。


 振り返ると、そこにはお婆さんがいた。異様な服装だ。


 よく言えば、高名な霊能者、悪く言えば魔女。


「な、何かご用ですか?」


 俺は顔を引きつらせて尋ねた。するとお婆さんは俺を指差し、


「貴方の隣にいる女性は、貴方の知り合いか?」


「は?」


 頭がおかしい婆さんか? 俺の隣に女性なんていないぞ……。


 全身から嫌な汗が出る。そ、それってもしかして?


「樋口晶子。その子はそう名乗っておる」


 俺は卒倒した。あの子は、この世のものではなかったのか……。

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