ゲレンデの女
俺は三度の飯よりスキーが好きな男。
今日も車で新潟のスキー場に来ている。
俺の友人の多くは、スキーはナンパの手段だと思っているが、俺は違う。
俺は純粋にスキーが好きなのだ。
だが誰も信じてくれない。何故なら、俺が「イケメン」だからなのだ。
どこのゲレンデに行っても、俺は注目の的だ。
でも俺は、そんなところで男を探している浮ついた女には興味がなかった。
その思いが高じて、今日は一人だ。
リフト待ちをしていた時、俺は衝撃を受けた。
「ゲレンデで恋に落ちるなんて邪道だ」
それが俺の持論だった。しかし、今日その持論を撤回しなければならない女性を見た。
純情可憐。まさにその四字熟語がピッタリの人を見たのだ。
髪は染めていない。しかも長いストレートだ。
目は黒目がちで二重。鼻と口は可愛らしく、まさに下品な表現だが「むしゃぶりつきたい」ほどだ。
彼女は俺の三つ前のリフトに乗っていた。
上に着いたら、話しかけたい。そう思った。
「あれ?」
着いてみると、彼女がいない。もう滑り降りたのか?
そう思って、俺も滑った。滑りながら彼女を探したが、どこにもいない。
幻にしてはあまりにもはっきりと見えていた。
どこに行ったのだろう?
俺はまたリフトに乗り、上から彼女を探した。
しかし、どこにもその可憐な姿は見えなかった。
「おかしいな」
俺は首を傾げて、考え込んだ。その時、また衝撃が走った。
下って来るリフトに、その可憐な姿があったのだ。
降りられなかったのか?
俺は心配になり、上に着くとすぐに滑り降り、先回りして彼女を待った。
すると彼女はすでにリフトを降り、また列に並んでいた。
ああ、良かった。大丈夫みたいだ。
でも気になり、もう一度リフトに乗った。
彼女は二つ前だ。
あれれ? また降りない。何だ、一体?
俺は気になったが取り敢えずリフトを降り、近くにいた係員に尋ねた。
「あの女性、さっきもリフトを降り損なったみたいですけど、大丈夫なんですか?」
すると係員はこう言った。
「あの人、リフトに乗るだけなんです。降ろそうとすると暴れるので、気がすむまでそのままにしているんです」
彼女は「残念な女性」だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます