灰かぶりの女
僕は人生モテナイ街道をまっしぐらの男だった。
ところが、一週間前、突然その転換点が訪れた。
同じ会社に勤務する蒼井あおいさんに告白され、付き合う事になったのだ。
彼女は会社のマドンナ的存在で、独身男性の憧れだった。
だから、最初は絶対ドッキリだと思い、周囲を見回したり、カメラを探したりした。
しかしそうではなかった。あおいさんは本当に僕と付き合いたいのだそうだ。
それでもまだ、夢ではないかと思い、ほっぺたを抓ったりした。
痛かった。夢ではないのだ。
まさしく「夢のよう」だった。
それからは毎日二人で帰った。
食事をしたり、バーに行ったり。
もちろん休日にはデートを楽しんだ。
映画も観た。遊園地にも行った。
ブランドショップで買い物もした。
本当に楽しい毎日だった。
でも、一つだけ不満がある。
あおいさんは、夜中の十二時が近くなると、どこにいても帰ってしまう。
「ごめんなさい、門限がうるさいの」
そう言われると僕も引き止められない。
そんな事が何回か続いた。
僕はどうしてあおいさんがそこまで帰りたがるのか知りたくて、作戦を思いついた。
カクテルバーに行った時、僕はあおいさんを褒めちぎって、どんどん酒を飲ませた。
計画通りあおいさんは酔い潰れ、僕は彼女を背負ってバーを出た。
このままホテルに、とも思ったが、それはあまりに酷いと判断し、彼女の酔いを醒ますために誰もいない公園のベンチに座った。
予想以上に酔ってしまったあおいさんは、十二時近くになっても目を覚まさない。
一分過ぎたら起こしてあげようと思い、彼女の可愛い寝顔を見ていた。
その時、あおいさんのバッグの中から,凄まじいアラーム音が鳴り響いた。
「は!」
あおいさんがその音で飛び起きた。
「ああああ!」
彼女はアラームを止め、時刻を確認し、蒼ざめた。
「どうして、どうしてこんな事をしたの!?」
彼女は僕に怒鳴った。
僕はそこまで怒られるとは思わなかったので、唖然としてしまった。
「え?」
彼女の顔がヒクヒクと動いている。急に髪の毛が伸び始め、顔も毛で覆われた。
そしてその可愛い顔は、狼に変わってしまった。
「私はこんな女なのよ。夜中の十二時を過ぎると、こうなってしまうの」
彼女は泣き出した。僕は唖然としていたが、ハッと我に返り、
「何だ、そんな事で悩んでいたのか。僕も同類だよ。そのうち、変身をコントロールできるようになるよ、安心して」
と正体を明かした。実は僕も狼男だったのだ。
「嬉しい、ようやく仲間に会えたわ。だから貴方に惹かれたのかしら?」
「そうかもね」
僕達はその日、結ばれた。
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