弁当の女2
僕の名前は目白裕貴。高校三年生だ。
センター試験も終わり、私立の入試目指して最後の追い込みをするため、予備校の集中講座を受講した。
その帰り道、友人と別れ、たまにしか会えない彼女と待ち合わせ。
試験が終わるまで会わないでお互い頑張ろうと約束したのだが、どうしても我慢できなくなって、僕が呼び出したのだ。
彼女も会いたいと言ってくれて、余計に愛しさが募った。
僕はドキドキしながら、ベンチに腰掛け、彼女が来るのを待った。
こんな時、一分一秒がとてつもなく長く感じる。
今なら僕は最高の詩人になれるのに、などとバカな事を考えながら、彼女の到着を待つ。
「ごめーん、遅くなって」
は? 僕の隣に座る女性。誰?
「何よお、遅れたの、たった三分じゃないの。もうそんなに不機嫌になってるの?」
か、可愛い。女優の新垣結衣にそっくりだ。でも誰、この人?
「ね、これ食べて機嫌直して」
その人はとびっきりの笑顔で、持っていたバッグからDキャラクターが描かれた弁当箱を取り出した。
何だ? 何が始まるんだ?
「はい、あーん」
彼女は箸でタコさんウィンナーを取り、僕の口元に持って来た。
「えっ?」
僕は訳が分からず、キョトンとした。
「ほおら、あーん」
「あ、あーん」
何かいい知れぬ怖さを感じ、ここはこの人に合わせる事にした。
「はーい」
タコさんウィンナーが口の中に入る。
う、うまい! これはうまいぞ。彼女の手作り弁当も食べたけど、比べ物にならないくらいうまい!
「はい、今度は玉子焼きね。あーん」
「あーん」
いつしか僕はこの不思議な女性の弁当の虜になっていて、次々に口に運ばれる信じられないくらいおいしいおかずを食べた。
「はーい、おしまい」
その人は笑顔で僕を見た。
「おいしかった?」
「うん、おいしかったよ」
「良かった。勉強、頑張ろうね」
「う、うん」
僕は思わずその人と共にガッツポーズをとっていた。
「じゃあねェ!」
その女性は、手を振りながら走って行った。
僕も振り返していた。
そして、その様子を見ていた彼女にその日の夜、絶縁メールをもらってしまった。
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