ピザの女2

 俺はある企業の一営業マン。


 今日は長くかかっていた仕事の区切りが着き、ようやく一息つけたので、同僚達と街に繰り出した。


 そして、一頻り楽しんでから、家路に着く。


 とは言え、独り身なので、アパートに帰っても、誰がいる訳ではない。


 彼女とは三ヶ月前に悲しい別れをし、それ以来女性恐怖症になった。


 このままずっと一人でもいいさ。


 そんな事まで考え始めていた。


「只今ー」


 酔いが回っていて、テンションが高くなっているため、誰もいないのに大声で言う。


 明日の朝、自己嫌悪に陥るかもと思いながらも、妙に楽しくなってしまう自分がいる。


「ふーっ」


 まずは冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、グビグビと飲む。


 酔い覚ましという事でもないが、脱水症状寸前なのは自覚しているので、水分補給を思いついた。


「あーっ」

 

 叫びながら、ベッドに倒れ込む。


 後は寝るだけだ。そう思った時だ。


 玄関のチャイムが鳴った。


 あん? 同僚が忘れ物でも届けてくれたのか?


 深く考えずに、俺はドアを開いた。


「お待たせ致しました、ピザオットです」


 何故かそこにはピザ屋が立っていた。


 ピエロのような制服を着て、大き過ぎる帽子をかぶった女の子だ。


 何となく、中川翔子に似ている気がした。


 うん? そんな事より、俺はピザなんか頼んでいないぞ。


「間違いだよ。頼んでねーし」


 俺はそう言うと、ドアを閉めかけた。


「どっさりカマンベールと、ジンジャートマトのハーフ&ハーフで宜しかったですか?」


 女の子は素早く玄関の中に入り込み、そう言った。


「だから、頼んでねえって言ってるだろ?」


「こちらにサインをお願いします」


 まるで聞いていない。でも、この子、可愛いし、ピザなんて久しぶりだし、まァいいか、なんて思ってしまった。


「あいよ」


 俺はニヤニヤしてサインした。女の子は俺にピザの箱を渡し、


「今ならサービスで、私のキスか、私のパンチを差し上げていますが、どうなさいますか?」


「は?」


 何だ? そんなサービスあるのか? まるで○俗じゃないか。ま、いいか。


「じゃ、じゃあ、キスで」


 俺はヘラヘラしながら言った。すると女の子はニコッとして、


「では目を瞑って下さい」


 俺はドキドキして目を閉じた。


 うん? しばらく経っても、キスが来ない。


 ひょっとして騙し討ちでパンチかとも思ったが、それもない。


「あれ?」

 

 目を開けると女の子はいず、バイクが走り去って行く音が聞こえた。


「何だよ、担がれたのか」


 しかし、あれっと思った。代金払ってないぞ。


 もしかして、得したのか?


 俺は非常に形容し難い思いを抱きながら、ピザの箱を抱えて部屋に戻った。


「カマンベールか。俺、苦手だったな」


 そんな事を思いながら、蓋を開けた。


「……」


 心配する必要はなかった。


 中に入っていたのは、食べカスと、口を拭ったペーパータオルだけだったのだ。


 あの子は一体何者なんだ?


 今夜は眠れなくなりそうだ。

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