一話完結小説集 ○○の女
神村律子
大凶の女?
律子は非常に運が悪い女だと自分で思っている。
「アタシはきっと人生が大凶なんだ」
と。
駅までのバスを待っていると、携帯がなり、携帯を探しているうちにバスに行かれてしまった。
駅のホームで電車を待っていて、電車のドアが開いて乗ろうとした時、後ろからお婆さんに話しかけられ、乗り遅れてしまった。
会社の前でタクシーを停めたら、別の課の連中に乗られてしまった。
たまの休日、滅多にできないデートで遊園地に行き、観覧車に乗るために順番待ちしていたら、直前で故障して乗れなくなり、その事で彼に、
「お前といるといつもこうだよ」
と罵られ、喧嘩になってそのままデートは終了した。
「故障は、アタシのせいなの!?」
あのバカ! 大体アタシが全部お金出してるのに、何よ、あの態度は?
年下のクセに、偉そうにして!
アタシのヒモかって訊きたいくらい、負担してるじゃないよ、あんたのアパートの光熱費まで。
律子は腹が立ったので、食べ物で気持ちを紛らわそうと思い、カレーショップに行った。
しかし、そこも満席で当分入れそうにない。
イライラが募る。
ふと気づくと、路地の先に「占い」の文字。
律子はフラフラと引き寄せられるように歩き、占い師の前に座ってしまった。
「おお、これはまた素晴らしい吉相ですな、お嬢さん」
占い師は老人で、律子を見るなりそう言った。律子はムッとして、
「吉相? 冗談じゃないわ!」
彼女は、これまでにあった事を洗いざらい占い師の老人に話した。
すると老人は微笑んだままで、
「貴女は途中で結論を出してしまっています。よく調べてみなさい。そうすれば、貴女はどれだけ自分が運のいい人間か、わかるはずです」
「はあ?」
律子はバカにされたと思ったが、
「はい、見料!」
と書かれていた三千円を出した。すると老人は、
「見料は要りませんよ。貴女が納得できたら、払いに来て下さい」
「はい……」
律子はすっかりわけがわからない状態でその場を離れた。
律子は、インターネットや新聞、会社のホームページで調べて、驚愕した。
乗り遅れたバスは交通事故を起こし、乗客の何人かが怪我をしていた。
同じく乗り遅れた電車は、ドアの故障で三時間立ち往生した。
乗るはずだったタクシーは、居眠り運転の車に追突され、会社の同僚達に怪我はなかったが、タクシーは大破してしまい、彼らは商談に遅刻し、契約は白紙となった。
そして、乗れなかった観覧車は、律子達が帰った直後に動くようになったが、すぐに停止してしまい、最大で一時間、閉じ込められた客がいた。
入れなかったカレーショップは、食中毒を出し、多くの人が救急車で病院に運ばれた。
「これって……」
確かに律子は運が良かったのかも知れない。
彼女はすぐさま、あの占い師のところに向かった。
「おお、お嬢さん。早かったね」
「はい。ありがとうございました」
律子は見料を占い師に渡した。占い師はニッコリして、
「わかりましたか、律子さん。人間の良運、悪運などは、切り取る場面で全く違ってしまうものなのです。その事を忘れなければ、クヨクヨする事も、イライラする事も少なくなりますよ」
「はい」
え? 律子はお辞儀をしながら気づいた。
「何で私の名前を?」
「知ってますよ、もちろんね」
律子はその時、やっと老人の正体に気づいた。
「おじいちゃん……」
占い師は、律子が幼い頃に亡くなった祖父だった。
顔を上げると、そこには誰もいない。
律子は幸せな気持ちでいっぱいになった。
そして、何故か涙が止まらなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます