真・山手線の女
僕はしがないサラリーマン。
よくこの「しがない」を耳にしたり目にしたりするが、意味は知らない。
今日も仕事に疲れ、生活に追われ、いつもの電車に乗った。
山手線内回りだ。
程々に混んでいて、座席があまり空いていない。
「お」
一つ空いていた。若い女性が転寝をしている隣だ。
その時、僕はその席の空き方の不自然さに気づくべきだったのだ。
何しろ、一番端の席が空いていたのだから。
「すみません」
僕は人を避けながら、そこに座った。
たった四駅だが、座りたい。
そのくらい疲れていた。
「え?」
僕が座るなり、隣の女性が僕の方に倒れて来た。
思わず見てしまう。
すごく可愛い子だ。いい匂いがする。
「う、うん……」
僕は咳払いをして起こそうとしたが、彼女は熟睡しているみたいで、全く反応がない。
可愛い寝息が聞こえ、ドキドキしてしまう。
ま、いいか。こんなのも悪くない。
癒される感じだ。
僕はほんの
彼女と別れてどれくらい経ったかな?
そんな事を考えているうちに下車駅に着いた。
「あれ?」
何故か立てない。身体に力が入らないのだ。
「!」
いつの間にか、僕は隣の女性に左手をしっかりと掴まれていた。
(何だ?)
彼女は眠ったままだ。
「……」
声が出せない。どういう事だ?
ああ。僕はゆっくりと座席にめり込んでいた。
それに応じて、彼女の重さが増しているのも感じた。
(何がどうして……)
僕の身体は半分くらいめり込んでいる。しかし周囲の人はその異変に全く気づいていない。
……。
僕は完全に座席に埋まってしまった。
彼女の手が離れ、重さも感じなくなった。
誰? 君は誰? そう問いかけたかったが、それもできない。
僕はどうなってしまうのだろう?
それを知りたかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます