たゆたう波の終わり
河野 る宇
◆第一章-序
*仰ぎ見る空
──森というものは、立ち並ぶ木々などの密集する度合いによりおおよそ、その風貌は変化する。樹木の種類でも変わるものだが、この森のほとんどは広葉樹が占めていた。
広く平たい葉は風になびき、差し込む太陽の光をきらきらと地に落とす。おどろおどろしい森でないことは、眼前に広がる風景がそれを示していた。
しかし、途切れ途切れであっても空には雲があり、葉が青々としている森のなかでは陽の光の全てが注がれる訳もない。
そんな静かな森のなか、柔らかな土を踏みしめて足早に歩く足音が響く。
どこからともなく起きたけたたましい鳥の鳴き声にふと立ち止まる足音は、すぐにまたその歩みを進めた。
「はあ……。はっ──」
少年は、薄暗い森の中で走り続けていた。まるで、何かから遠ざかろうとしているのか時折、木の根に足を取られながらも止まることがない。
目指す場所があるように見えて、辺りを見回すその様子から迷ったのかあるいは、目的地は決まっていないようにも思える。
少年は十代半ばだろうか、整った顔立ちに金のショートヘア、エメラルドのように輝く瞳は神秘性を
身なりに見合わず切れ長の目に薄い唇、鼻筋の通った面持ちは誰もが振り返るほどなれど、その表情から感情はあまり読み取れない。
──ここはアルカヴァリュシア・ルセタ。ヨーロッパにある小国だ。
国土の三分の一は広葉樹林が広がり、温暖な気候で首都以外はあまり発展していない。大きな産業もないこの国は、決して裕福とは言い難い。
主に科学技術において秀でていた国だが、昨今の世界各国におけるめまぐるしい発展にその技術の輸出すらも脅かされ、まさに風前の灯火となっている。
二万人にも満たない人口であるため、細々とだが国民はそれなりに幸福感を持って暮らしている。
──どれくらい走っただろうか。少年の着ている服と背負っているバックパックから、かなりの時間を移動していたに違いない。
ふと少年は立ち止まり、少し荒くなった息を整えながら木々の間から空を仰いだ。陽は傾き、しばらくすればあかね色の光が世界を染めるだろう。
これからやってくる暗闇を想像もしていないのか、少年の顔には自然と笑みがこぼれていた。
持っていた食料も底を突き、数日が経っている。けれども、少年の目は不思議と喜びに輝いていた。
ケヤキの葉は季節ごとに葉を落とし、落ちた葉が土を育て森を豊かにする。目を閉じて、森特有の薫りを肺一杯に吸い込み深く吐き出した。
見えるもの、感じるもの全てを記憶に焼き付けるように、少年は森の中をじっくりと見回した。
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