*躊躇いと戸惑い

「とにかく。そういうことなんで」

 ジャンはカイルの背中を叩いて遠ざかる。

 どういうことなんでなのかとカイルは苦い表情を浮かべ、南を見つめているベリルを見下ろす。

 まったくこのガキ、自分がどういう状況なのか解っているのか。止めることも出来たのに、本人が乗り気ではそれもままならない。

 正直、こんな子どもを使いたくはない。ジャンはただ撃ちまくればいいと言ったが、無事で済む保証なんてどこにもない。

 予想だにしない所から流れ弾は飛んでくる。どんなに理解していても、それで命を落とした仲間は大勢いる。

 こいつは、そんなことまで考えて武器を持っているのか怒鳴ってやりたい気分だ。のほほんとしやがってと口の中で愚痴りながらわしわしと頭をかく。

 しかしカイルは、やり取りのなかでベリルの小さな反応を見逃さなかった。

「A国からの要請」

 ジャンのそのひと言に一瞬だが、体を強ばらせ目を泳がせた。その目の動きは、まるで何かを探しているように思えた。

 あれは、政府の関係者がいないかを確かめたんじゃないだろうか。依頼だけして様子を見にも来ないと聞いたとき、ベリルはどこか安堵したように見えた。

 この国の政府に関係しているのか? そうすると、このガキは政府から逃げていることになる。国から追われる身とは、どういった理由なのか。

 そこまで考えて、そんな馬鹿なと肩をすくめた。

 当のベリルは、カイルの考察を知ってか知らずか、だぶつく服を気に掛けながら視界に入る人間たちを眺めていた。

 しれっとしやがって。カイルはベリルの頭を腹立たしげに軽くこづいた。

 ふいにこづかれたベリルは意味が解らなくてカイルを見上げる。

「いくつだ」

「十五です」

 ホントにガキじゃねぇか、妙に落ち着きやがって。こいつの言動は何歳なのか解らなくさせるんだ。

 気がつけば、言語障害はとうに消えていた。

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