13話 学園の魔術師
「まずは自己紹介をしておこう。君みたいな無礼なはぐれ者と違って、これでも由緒正しい魔術師の家系の出だからね……」
やけに偉そうな態度が鼻につく……なんて失礼なことを思っていると、彼は言葉を続ける。
「ボクの名前は、
私は、羅紗と名乗った男性が私と同じ学校の制服を着ていることに今更気が付く。名札の色からして、私の一つ下、一年生のようだった。
「いやあ、最近ね、ボクが使い魔として育てようと、ばらまいてた繭がいくつか壊されたから疑問に思っててね。まさかこんなふつうのどんくさそうな女の子が僕の邪魔をしていたなんてなぁ」
相変わらず胡散臭い笑顔を張り付けたままの羅紗は、わかりやすく私に敵意をぶつけてくる。
私は、隙あらばアシュタムが元の姿に戻ってこの男を一掃してくれないかと、羅紗のことを凝視してみるけど、彼と繋がっている紫の糸のようなものも化け物みたいなものも見えない。
「なにが目的なんです?」
羅紗が足を止めて私と、アシュタムを品定めするように見ている。私はともかく、アシュタムまでそんな風にみられることがなんとなくいらっとしてそう聞いた。
「君は魔術師同士のルールも
「ふざけないでください!」
私が大きな声でそういうと同時に、アシュタムが羅紗に襲いかかろうと飛びかかるのが見えた。
いくらなんでもそんな急に暴力沙汰は……と止めようとした私の目の前で、アシュタムはなにかに止められたような不自然な形で勢いを殺され、地面に落ちながら羅紗のつま先の前で止まった。
開いた口を惜しそうにガチンと音がしそうな勢いで閉じたアシュタムは、そのまま目の前でにやけている羅紗をにらみ付ける。
「使い魔の躾も出来ない魔術師が、ボクに意見なんてしない方がいいと思うんだけどなぁ……」
羅紗は、唸り声をあげているアシュタムの頭を撫でながら私を見る。アレだけ怒っているアシュタムの頭を撫でられるってことは、動けないようになにかされてるのかな……。
魔術とか使い魔とか、なにもわからなくて焦るけど、ここで弱気になったらまずいことになる気がする。
「まぁいいや。君の返事がなくても。君程度が施した契約なら、ボクに上書きできないはずはない。家でゆっくりこの使い魔をボクのものにするよ」
羅紗がそういったかと思うと、急に目の前から羅紗が消えた。
ほっとした私は、アシュタムに駆け寄ろうとする。けど、アシュタムの姿まで消えていた。
「うそ……」
悪い夢なんじゃないか。そう思った。
公園中探してもアシュタムの姿は見つからなかった。
私は途方に暮れて立ち尽くす。
もう時間は深夜といってもいい時間になっていた。仕方なく帰ろうと思ったときアシュタムが、契約をした翌日言っていたことを思い出した。
―契約を交わしたことでこうして口に出さなくても会話ができるようになった。
私は急いで手首の内側になる契約の印を確認する。まだ契約の印は鮮やかに私の手首に存在している。
私はアシュタムの姿を思い浮かべて彼の名前を呼んだ。
『やっと使えるようになったか』
私の声に応答したアシュタムの声は思いのほかのんびりしたもので驚く。てっきり最初の時みたいにひどい目に遭っているかと心配したのに……。
『いや、これもお前にとって念話を身に着けるためのよい機会かと思ってな……。心の声を閉ざすのがうまくなりすぎて発しようとしてるのを見たことがない』
『心配したんだよ……急にいなくなるし、契約を書き換えるとかあの人は言ってたし』
予想以上にのんびりとした声のアシュタムに安心して、私は帰路につく。安心してやっと冬の寒さが私の体を芯まで冷やしていたことに気が付いて、痛くなり始めた指先に息を吐いて温めながら歩く。
『王が行う絶対的な誓いを、三下の魔術師風情が解けるはずがない』
『三下?』
『お前を最後まで魔術師だと勘違いしてる時点で三下だ……。さて、そろそろ帰る。エントランスのあたりで待っていてくれ』
そろそろ帰る? そんな簡単に帰れるの? 結構大袈裟な感じで離ればなれになったのに?
お母さんになんて言い訳しようかすごく考えてたのに……。もちろん、アシュタムが無事に帰ってきてくれるのはうれしいんだけど。
そんなことを考えているうちに、アシュタムからの返事は聞こえなくなった。
帰ってくると言ったのだから、本当に帰ってきそう…と彼の言葉を信じて小走りでマンションまで向かうと、見覚えのあるシルエットがちょうどマンションの入り口に歩いているところだった。
「アシュタムー!」
駆け寄って全身をくまなくチェックする。どこもけがはしてないみたいだった。
でも、確かアシュタム……最初の蚊男と戦ったとき足をちぎられてたけど普通に生えてたよね……と思い直し、また心配になる。
「紬を安心させるために無理などしない。なんともないから安心してくれ。さぁ、お前の部屋へ帰ろう。どんなに豪華で広い場所よりも、この世界ではお前の部屋が一番落ち着く」
心配してるのが表情でばれたのか、心の声が駄々漏れだったのかまではわからないけど、アシュタムは私にそう声をかけると、尾をゆっくりと振りながら私の服の袖を甘噛みして引っ張った。
羅紗と言っていた男性のことはとりあえず明日考えよう。あと、アシュタムがどうしていたのかもやっぱり気になるから後で聞こうっと。
「そうだね、とりあえず帰ろ」
私たちは、二人並んでエレベーターに乗り込んだ。
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